アフトキャビンから出て来た隆が、遅れてき
た陽子の姿に気づいた。
「決算前の収支計算が大変で・・」
会社では、経理課に所属している陽子が、麻
美子に返事した。
「経理前の収支は大変だよね」
同じく、会社で経理を取りまとめている麻美
子が、陽子に同意した。
「ギャレーに、皆それぞれのマイカップとか
あるんだね」
アフトキャビンから出て来た隆が、遅れてき
た陽子の姿に気づいた。
「決算前の収支計算が大変で・・」
会社では、経理課に所属している陽子が、麻
美子に返事した。
「経理前の収支は大変だよね」
同じく、会社で経理を取りまとめている麻美
子が、陽子に同意した。
「ギャレーに、皆それぞれのマイカップとか
あるんだね」
「本当だよな。うちとか、他の男性が多い船
に配属になっていたら、彼女も、うちの大内
さんみたいに途中から来なくなってしまって
いたかもしれないよな」
中村さんが呟いた。
「こんばんは」
残業を終えて、陽子が遅れて到着した。
「あ、陽子ちゃん!残業は大丈夫だった?」
麻美子が、陽子のことを出迎えた。
「お、やっと来たか」
「彼女は、いくつなの?」
中村さんが聞いた。
「え、香代ちゃん?21歳よね」
麻美子が、中村さんに答えた。
「21か、ずいぶんと若いんだな」
中村さんが言った。
「ヨット教室では貴重な存在だ」
「麻美さんが優しいから、ラッコに配属され
て良かったですね」
アクエリアスのクルーが、麻美子に言った。
「いくつぐらいなのだろうね」
「彼女って、いくつって言っていたかな」
中村さんは、自分の所のクルーに聞いた。
「大内さんですよね。確か、28とか29っ
て言っていたような気がしたけど」
アクエリアスのクルーが中村さんに答えた。
「だってさ」
麻美子が、横に腰掛けている香代に伝えた。
「私よりもお姉さんだ」
「そうね」
「そうなんですね。それじゃ、ビールパーテ
ィーの日に、初めて私はアクエリアスの女性
クルーさんたちに出会えるのかな」
麻美子は、中村さんに返事した。
「ただ、その日に参加するっていうのは1人
だけで、もう1人は、ビールパーティーにも
参加しないって言っていたな」
中村さんが言った。
「いくつぐらいの人なの?」
麻美子が、中村さんに聞いた。
そのクラブレースの3戦目が、8月の終わり
の日曜日、毎年ちょうど24時間テレビが放
送される日と同じ時期に開催されているのだ
ったが、3戦目のレースが終わった後は、マ
リーナ敷地内でバーベキューや飲み物を準備
して、夏のビールパーティーを開催するのが
マリーナ定例行事になっていた。
「そのビールパーティーには、楽しそうだか
ら参加したいとは言っていたよ」
中村さんは、麻美子に話した。
隆が、中村さんと最下位の話をしていたので
麻美子が訂正した。
「そうだったよな。うちが最下位で、ラッコ
は失格だったよな」
中村さんが、麻美子の訂正に苦笑していた。
クラブレース2戦目は、ちょうど海の日に開
催していたため、ラッコもアクエリアスも、
海の日の3連休は大島にクルージングへ行っ
ていたので、クラブレースには参加できなか
ったのだった。
「今月終わりのビールパーティーには来るみ
たいなことは言っていたけどね」
中村さんが、麻美子に話した。
「でも、これまでだって来ていないし、来る
かどうかはわからないな」
横浜マリーナでは、年何回かシリーズでマリ
ーナ主催のクラブレースを開催している。
今年初戦のクラブレースには、ラッコも参加
していて、最下位でゴールしていた。
「最下位じゃなく、失格だったじゃない」
「もう1人の女性生徒さんなんて、初日にア
クエリアスに振り分けられて、船の中でお話
だけして以来、一度もヨットには乗りに来た
ことないからね」
中村さんは、麻美子に答えた。
「あら、もったいない。ヨット教室って、一
応マリーナで講習料金払っているのよね」
「いくらだったか忘れたけど、1万だか2万
だか掛かっているはずだけど」
中村さんが、麻美子に答えた。
「後は、陽子ちゃん1人だけ」
麻美子は、中村さんに答えた。
「アクエリアスさんは、今回のクルージング
も男性だけなんですね」
「うちも、女性の生徒さんは2人来たんだけ
どね。ヨット教室の初日の翌週に、1回だけ
乗りに来て、その後は全く乗りに来ていない
んだよね」
「そうなんですか。あんまりヨットとの相性
が合わなかったのかな」
麻美子が、香代とアフトキャビンの片付けを
終えて、メインサロンに戻ると、サロンのソ
ファには、アクエリアスのクルーたちが来て
いて、隆とお喋りをしていた。
「いま、お茶を淹れますね」
麻美子は、ギャレーに行くと、お湯を沸かし
てアクエリアスの人たちのために、お茶と家
から持って来たお茶菓子を準備していた。
「ラッコの方は、もうメンバー皆、揃ってい
るのかな?」
バッグだけを、ただクローゼットに放り込ん
でいた雪と瑠璃子も、もう1回フォアキャビ
ンに戻って、フォアキャビンの荷物をもっと
暮らしやすいように片付け始めた。
「陽子ちゃんって遅くなるの?」
「うん、なんかLINEで来てたんだけど、
残業が残ってるんだって」
麻美子は、香代に答えた。
「あら、こんばんは」
麻美子が挨拶した。
「え、ぜんぶ荷物をバッグから出して、棚に
片付けているの?」
「うん。だって、これから1週間は、この船
がずっと住まいになるのだもの」
麻美子が、雪たちに答えた。
「バッグの中からいちいち着替えとか取り出
すよりも、棚に入っている方が暮らしやすい
でしょう」
雪と瑠璃子も頷いた。
「確かにそうだね」
「早いね。もう来ていたんだ」
「後は、来ていないのは陽子ちゃんだけね」
麻美子が言った。
瑠璃子は、持って来た自分の荷物をフォアキ
ャビンのクローゼットに片付けていた。
麻美子は、アフトキャビンの棚に、自分たち
が持って来た荷物を片付けていた。
「香代ちゃん、こっちに荷物も持って来な」
麻美子は、香代と一緒に荷物を片付けた。
「俺の荷物も片付けてくれてるの」
「おはよう!」
隆たちが、横浜のマリーナに到着すると、既
に瑠璃子と香代が来ていた。
ラッコの船体は、マリーナの職員たちの手で
昼間のうちにマリーナ前の海上、ポンツーン
に浮かんでいた。
ラッコの窓からは、明かりがもれていた。
「あれ、電気が点いているじゃん」
皆が、船内に入ると、雪がキャビンの中に、
もう来ていた。
異世界転生ファンタジーとしてスタートした
「本好きの下剋上」は、単なる娯楽を超え、
出版業界のデジタルシフトや著作権問題を鋭
く描き、読書文化の未来を問いかけた。
主人公マインの「本を作りたい」という情熱
は、紙の本から電子書籍、AI執筆時代への
移行を予見するかのようだ。シリーズ完結後
も、図書館再興や読書格差是正の議論を喚起
軽やかさと社会性を両立させた稀有な作品と
して、長く語り継がれるだろう。
(今井ゆみ)
麻美子に言われて、隆も渋谷から中目黒に引
っ越すことを前向きに考えてしまっていた。
「さあ、横浜市内に入ったよ。もうじきマリ
ーナにも着くわよ」
麻美子は、高速を下りると、隆に言った。
「じゃ、少し寝ておくか」
「もうすぐ着くって言っているのに、なんで
これから寝るのよ」
麻美子が苦笑した。
「ああ、もう横浜マリーナの側じゃん」
ドで寝ているじゃないの」
麻美子は、運転しながら、隆に答えた。
「良いのかな、俺って毎晩、麻美子の家で食
事して寝泊まりまでしてしまって」
「良いんじゃないの。お母さんも、隆が来る
と喜んでいるし」
麻美子は、隆に返事した。
「もう、勿体無いし、渋谷の部屋借りるのや
めて、中目黒に住んじゃえば」
「そうだな」
「秋になったら、お母さんもヨットに乗りに
来るってさ」
「そう言ってたわね。大丈夫かしら、船酔い
とかしないかな」
麻美子は、首都高の入り口から横浜行きの高
速道路に乗りながら、隆に返事した。
「ここのところ、毎晩のように会社が終わる
と、麻美子の実家で夕食を食べていないか」
「食べてるだけじゃなくて、食事終わると、
隆って毎日のように、うちの弟の部屋のベッ
「そうだ。今度、お母さんも、うちのヨット
に乗りに来てくださいよ」
隆は、お母さんのことをヨットに誘った。
「夏は暑そうだし、秋になって、もう少し涼
しくなったら1回ぐらい乗りに行こうかな」
「ぜひ、お待ちしています」
隆は、麻美子のお母さんが用意してくれてい
た夕食を食べてから、また麻美子と車に乗っ
て、横浜マリーナへと出発した。
「行ってきまーす」
「また今夜から1週間ずっとヨットで旅に出
てしまうのよね?」
「ええ」
「それは寂しくなるわ。ずっと1週間、お父
さんと2人きりの夕食になってしまうわ」
「クルージングから戻ったら、また夕食を食
べに来ますよ」
「うん。いつでも待っているから、遠慮なん
て一切しないで食べに来てね」
麻美子のお母さんは、隆に言った。
呼び鈴も何も押していないのに、実家の扉が
開いて、お母さんが隆のことを出迎えた。
「お疲れさん、夕食できているわよ」
「ありがとうございます」
お母さんは、隆のバッグを受け取ると、隆と
一緒に家の中へ入ってしまった。
「私があなたの娘なんですけどね、娘の出迎
えは無しですか」
麻美子は、独り言を喋りながら、車の鍵を閉
めて、家の中へ入った。
出入港の時だって、隆がステアリングを握っ
て操船していても、ヨットがある程度沖に出
てしまうと、すぐに香代がやって来て、ステ
アリングを交代させられてしまうのだった。
「香代ちゃんは、本当にヨットの操船が上手
くなってきているよね」
麻美子は、車を自分家の、実家の駐車場に停
めながら、隆と話していた。
「ただいま!」
「隆くん、お帰りなさい!」
「ヨットだと、ずっと操船しているくせに」
麻美子が、隆に言った。
「なんか、ヨットも最近では、ずっと香代に
ステアリング取られちゃっているけどな」
隆は、麻美子に答えた。
このところ、いつも香代がヘルムを取りたが
るから、隆は、ヨットの出入港時以外は、ほ
とんどステアリングを握っていなかった。
「そうね、香代ちゃん上達しているものね」
麻美子は、ちょっと嬉しそうだった。
「確かに、そうだったわね」
麻美子が答えた。
「あの車って平べったくて地べた這いつくば
ってるみたいで運転しにくいんだもん」
「この車になってから、麻美子がいつも自分
から鍵を持って、運転席に座ってくれるから
俺はいつも助手席に座っていられるので、ド
ライブが快適なんだ」
隆は、麻美子に言った。
「隆って、本当に車の運転嫌いね」
「最近は、車に乗るのがめちゃ楽しいよ」
隆は、会社の駐車場で自分の車に乗り込みな
がら、麻美子に言った。
「そうなんだ。このエスティマがタマゴ型で
丸っこくてかわいいから?」
「いや、そうじゃなくて。麻美子が自分から
いつも運転するようになってくれたから」
隆は、麻美子に答えた。
「前のスポーツカーの時は、いつも俺が運転
席ばかりだったじゃん」
2人は、一旦、中目黒の麻美子の実家に立ち
寄って、そこで夕食を食べてから、横浜マリ
ーナに行って、出航準備をしてから、その日
の夜のうちに伊豆七島、新島に出航する予定
だった。
「そうだ、また中村さんが、アクエリアスも
一緒に新島へ行くってさ」
麻美子は、隆に伝えた。
「今夜、一緒に出航するってこと?」
「うん。前回の海の日の連休みたいに」
「じゃ、休み前の仕事はここまでにして、そ
ろそろ上がっても良いかな」
「了解!お疲れ様」
隆は、麻美子に言われて、既に帰る準備をし
てある自分のバッグを持って立ち上がった。
「このまま、横浜マリーナまで直行する?」
「お母さんが、夕食の準備して待っているっ
て言うから、まずは中目黒に寄って、うちで
夕食を食べてから、横浜にいかない?」
「良いよ、別に」
結局、午後の隆の仕事は、殆どその資料をま
とめ上げることに費やしてしまった。
「資料を開発部のプログラマーに渡したよ」
麻美子は、社長室に戻ってきた。
「どうだった?俺のアイデアは、具現化でき
そうだったかな」
「なんか、色々突っ込まれて、そのまま具現
化するのは難しそうだけど、休み明けから具
現化できるように内容を修正して、プロジェ
クト化してくれるってさ」
「そうだ!ITを使って、仲の良い人たち同
士が一緒に楽しくできる仕事を何か作り出せ
ないかな」
隆が言った。
「そうね。そういう思いつきならば、会社の
ためにもなるし、良いアイデアよね」
麻美子は、隆に返事した。
「そのアイデアをプレゼン資料にまとめて、
開発部のプログラマーと相談して、もっと仕
事として実現できるように具体案にしよう」