「お刺身をください」
「アジとかカレイの良いのあるわよ」
お店のおばさんが麻美子に言った。
「じゃ、カレイを3尾ください」
麻美子が返事した。
「アジとか食べる?」
「アジフライ好き!」
「それじゃ、アジも少し」
麻美子が、魚屋とかに立ち寄って、今晩のお
かずだけ購入すると、皆はヨットに戻った。
「お刺身をください」
「アジとかカレイの良いのあるわよ」
お店のおばさんが麻美子に言った。
「じゃ、カレイを3尾ください」
麻美子が返事した。
「アジとか食べる?」
「アジフライ好き!」
「それじゃ、アジも少し」
麻美子が、魚屋とかに立ち寄って、今晩のお
かずだけ購入すると、皆はヨットに戻った。
「なんか買うものがあるなら、必要な食料品
だけ補充してからヨットに戻ろうか」
隆が、皆に言った。
殆どの店が、若者向けのアパレルショップの
中に埋もれるようにして、魚屋さんや小さな
スーパーがあった。
「すごい活気ある街ですね」
「今だけよ、夏が過ぎたら静かに戻るわ」
麻美子は、お店のおばさんと話していた。
「お刺身が少しほしいわね」
「これは、もう香代ちゃんの島だね」
雪は、新島の様子をラッコのメンバーで一番
若い香代を例としてあげていた。
当の香代自身は、こういう場所があまり得意
ではないようだった。
「新島でも、もっと静かな場所もあるから、
明日の午前中は次の島への出航前に、ちょっ
とそっちの方も散歩してみようか」
隆が言った。
「ここより静かなところの方が良いわ」
るから、夏休みの高校生が多いんだ」
隆は、麻美子に説明した。
「香代ちゃん、迷子にならないでね」
麻美子は、横にいる香代の手を握った。
「私も、なんか迷子になってしまいそう」
「陽子ちゃんも、手を繋いであげようか」
麻美子が、笑顔で陽子に言った。
「まあ、迷子になっても、漁港まで戻れば良
いだけだよ」
隆は、陽子に答えた。
商店街のお店の中には、お土産屋さんみたい
な店もあるにはあるのだが、おしゃれなアク
セサリーやらアパレルを販売しているお店の
方が遥かに多かった。
まるで、東京の原宿のお店が新島へ一斉に移
動してきたみたいだった。
「これは、なんかわざわざ伊豆の島までやっ
て来た感がないわね」
麻美子は、新島の商店街に呆れていた。
「新島と式根島は、熱海からも高速船で来れ
「ここで、おばさんが水着を着て、うろうろ
していたら完全に場違いよね」
麻美子と雪も話していた。
「それじゃ、ビーチは諦めて、商店街の方へ
行ってみるか」
隆の提案で、ラッコの皆は、中心街の坂道を
上って行った。
坂道の両端には、商店が無数に並んでいた。
「お店で売っているものが島らしくない」
瑠璃子が、店の中を覗いて、感想を言った。
「水着、今回のクルージングに持って来てい
る人はいる?」
「一応、私も持っては来ているけど」
陽子が隆に答えた。
「私も持って来ているけど、このビーチで水
着を着る自信はないかな」
瑠璃子も答えた。
「私が持って来た水着ってワンピースだし」
「だよね、私もワンピース。ここで着ている
子たちってビキニばかりだものね」
隆は、麻美子に答えた。
「歩いている子たちが皆、香代ちゃんよりも
さらに若い子達ばかりよね」
ラッコの皆は、街の中心街の目の前のビーチ
までやって来ていた。
「隆が言っていた新島は、わちゃわちゃして
いるって、こういう事だったのね」
「意味がわかった?」
麻美子は、隆に頷いた。
「まるで、原宿みたい」
新島の中心街の通りは、海岸沿いから島の上
の方に向かって、上がっていくように伸びて
いた。中心街の目の前には、海岸、ビーチが
あって、ビーチは、ものすごい人の数で溢れ
ていた。
青やら赤やらの派手な水着を着た男女で、ビ
ーチは満杯だった。
「なんか皆、すごく若い人ばかりじゃない」
「ああ、夏の新島や式根島は、高校生や10
代の子たちでいつも溢れているよ」
アクエリアス船内には誰も残ってなかった。
「ちょっとだけ出かけてきます。すぐに戻っ
てきます」
隆は、岸壁で宴会をしていた隣のヨットの人
たちに声をかけてから出かけた。
「行ってらしゃい」
漁港を出ると、島の海岸沿いの道路を街の方
へ向けて、ぶらぶらと歩いていた。
「なんだか、すごい人の数ね」
「大混雑していない」
「陽が落ちて暗くなる前に、ちょっと新島の
街を見てこようか」
キャビンの中で寛いで、お喋りをしていた皆
に、隆が声をかけた。
「うん。遊びに行ってこよう」
皆は、小さいバッグを肩から下げて、出かけ
る準備をした。
「アクエリアスも一緒に行くかな」
麻美子が、背後に停泊しているアクエリアス
の中を覗くと、もう出かけてしまっていた。
「そこへ、そのまま入港して、俺らの後ろに
ちゃっかり停まっていないか」
「確かに」
陽子が、隆に頷いた。
「それなのに、お礼も言われてない」
「そうだよね」
陽子が頷いた。
「そう言うことを言わないの!」
横で2人の話を聞いていた麻美子が、隆のこ
とを叱っていた。
「一応、男性も1人いますけどね」
皆の中で、年長の麻美子や雪は、周りに停泊
しているヨットの男性たちに声をかけられて
その応対をしていた。
「なんか、随分とアクエリアスは、楽をして
いないか」
隆が、キャビン内で陽子に言った。
「そうなの?」
「だって、俺らがやっと空きスペース見つけ
て、ここに停泊したんだぞ」
アクエリアスのクルーが船首からラッコの船
尾にいた陽子たちに、舫いロープを投げて渡
した。
「はーい!」
陽子と瑠璃子が、アクエリアスのクルーから
舫いロープを受け取り、ラッコの船尾に付い
ている左右のクリートにロープを結んだ。
「どちらから来られたのですか?」
「横浜です」
「女性ばかりで乗られているのですね」
ラッコが岸壁に停泊し終わった後、ラッコの
すぐ後ろにアクエリアスがアンカーを打って
停泊した。
港内は、お盆休みを新島で過ごそうとやって
来たボートやヨットの数が多すぎて、全艇が
全て岸壁に停泊できる場所がないため、ラッ
コのように直接、岸壁に停泊したヨットの後
ろに、さらに後からやって来たヨットが二重
に停泊しているのだった。
「お願いします」
ラッコが岸壁の手前で停泊したのに合わせて
船首で舫いロープを持って構えていた香代が
舫いロープを持ったまま岸壁に飛び移って、
岸壁に付いていたクリートに舫いを結んだ。
「すごいね!女の子ばかりで、かっこ良く船
を停泊させたね」
隣に停泊していたヨットのおじさんたちから
香代への歓声が上がっていた。
「香代ちゃん、戻っておいで」
麻美子に呼ばれ香代は岸壁から船へ戻った。
隆は、ラッコを操船して、空いている岸壁に
近づきつつ、頃合いの良い場所で、アンカー
を持っている陽子と瑠璃子に、アンカーを落
とす指示を出した。
アンカー、レッコーとは、アンカーを落とせ
という意味だ。
ラッコは、岸壁に向かって前進していたが、
陽子と瑠璃子が落としたアンカーが効いて、
前進するのが止まって、岸壁の手前でしっか
り停泊した。
船首のアンカーは、常に船首に備え付けられ
ていて、電動のスイッチ一つでアンカーの出
し入れができた。
船尾には、アンカーが常時取り付けられてい
るわけではなく、陽子と瑠璃子に、雪も加わ
って、船尾用のアンカーが入っているアンカ
ーロッカーから手でアンカーとアンカーロー
プを取り出して、2人が手動で船尾に取り付
けたのだった。
「アンカー、レッコー!」
海の日のクルージングでは、ラッコは波浮港
の岸壁へ後ろ向きに停泊したので、船首に備
え付けられたアンカーを使えた。
今回は、大勢のボートやヨットで混雑してい
るし、他のヨットやボートが船首から岸壁に
突っ込む形で停泊しているため、他艇に合わ
せて、ラッコも船首から岸壁に着けるしかな
かったのだった。なので、船首から岸壁に停
泊する場合は、ラッコも船首と別のアンカー
を船尾から落とさざるをえなかった。
隆は、狭い港内の中で、どこか停泊できる空
きスペースがないか探していた。
「あの端に停めようか」
隆は、漁港の一番隅の方に空いている場所を
見つけて、陽子に伝えた。
「いつでも、アンカーを下ろす準備はできて
いるよ」
陽子は、アンカーロープとアンカーを、瑠璃
子と一緒に持ちながら、隆に返事した。
「OK、着岸するぞ」
港内は、東京や湘南、静岡など至るところの
マリーナからやって来たボートやヨットでい
っぱいになっていた。
もともと漁港に停泊している漁船の数よりも
今はヨットやボートの数の方が遥かに多く停
泊していた。
「泊められる場所ある?」
麻美子は、ラットを握っている隆に聞いた。
隆は、港内の中を停泊できる場所を探して、
ぐるぐる旋回中だった。
時刻は午後3時、ラッコは新島の新島港に到
着した。
「着岸するぞ」
昨夜の午前12時、午前1時近くに横浜マリ
ーナを出航しているので、だいたい14時間
ぐらい掛かって、新島港に到着した。
「すごい大混雑ね」
麻美子は、港内を眺めながら、呟いた。
「本当にレジャーボートだらけだな」
隆も、麻美子に同意した。
「それで、下田に着いたら、観光船で利島に
上陸してみようか」
香代が嬉しそうに頷いた。
「その次は、伊豆でも東伊豆でもなく、西伊
豆の方に行ってみるのも良いよ」
「うわ、大変。この先、何年もあっちこっち
行かなければならない所がいっぱいね」
麻美子は、皆に言った。
「とりあえず、今は新島を目指そう」
隆が、現実の航海に皆を戻した。
「途中に、熱海とか熱海の沖には初島って島
もあるし、稲取とかいろいろな漁港に立ち寄
りながら行ける」
隆が言った。
「そっちのクルージングも楽しそうだね」
「ああ、来年とかのクルージングは、静岡の
東伊豆とか巡ってみようか」
「それ良いかも!行ってみたい!」
陽子が隆に賛成した。
「まずは、新島に行きましょう」
「利島に上陸しようと思ったら、伊豆の下田
港にでも停泊させておいて、そこから観光船
にでも乗って渡るしかないかな」
隆が言った。
「下田って静岡県のこと?」
「うん。下田も、横浜からヨットで行くには
距離的にもちょうど良く楽しいぞ」
陽子が、隆の話を楽しそうに聞いていた。
「陸沿いだから、島より安全そうね」
麻美子が言った。
「無人島?」
香代が、隆に聞いた。
「無人島じゃないよ、ちゃんと人が住んでい
る島だよ」
隆は、香代の質問に答えた。
「せっかくだから、あの島にも上陸してみた
いな」
香代が言った。
「利島は、ヨットが停められる港が無いから
ヨットでは上陸できないかな」
前回の海の日のクルージングでは、大島の波
浮港までしか来ていないので、ここから先は
隆以外のラッコのクルーにとっては、初めて
の海域だった。
「新島は、あの先の方にあるから」
隆は、隆に言われて、渋々とラットを握って
いる麻美子に針路を説明した。
「あの真横にある島は何なの?」
「利島」
隆は、陽子に聞かれて答えた。
風も無く穏やかな海上で、セイルはメインセ
イルとミズンセイルのみを上げて、ずっとエ
ンジンとセイルのハイブリッド機帆走で走っ
ていたラッコだった。
同じく、セイルはメインセイルのみでエンジ
ンとのハイブリッドで機帆走していたアクエ
リアスだった。
ここまで順調に走って来て、麻美子が作った
朝ごはんを食べ終わった頃には、ラッコは大
島を越えて、さらに南を目指していた。
ラッコをフィンランドの造船所で造ってもら
っている時に取り付けてもらった最新のGP
S航海計器を、瑠璃子は見事に使いこなして
しまっていた。
「複数の船の情報を入力させられる機能もち
ゃんと付いているの」
今は、おそらく隆よりも航海計器の操作方法
をよく熟知していることだろう。
「それを、瑠璃子は使いこなせているんだ」
隆は、瑠璃子のことを感心していた。
「今回は、目視だけじゃなく、航海計器にも
アクエリアスの場所を追尾してあるの」
瑠璃子は、航海計器のモニターを隆に見せな
がら、説明した。
モニター上には、ラッコが進んで来た航跡だ
けじゃなく、アクエリアスの進んで来た航跡
まで映し出されていた。
「さすが、瑠璃子。名航海士だな」
隆は、瑠璃子のことを褒めた。
「どうやってインプットしたの?」