ギャレーへ行ってしまった。
「そういえば、アクエリアスは?」
「後ろにずっとくっついて来ているよ」
瑠璃子が、後ろの方を走っているアクエリア
スの姿を指差した。
「前回は、ここでエンジンが止まったとか連
絡が入って、Uターンさせられてしまったん
だったよな」
隆が、前回のことを思い出していた。
「今回は大丈夫よ」
ギャレーへ行ってしまった。
「そういえば、アクエリアスは?」
「後ろにずっとくっついて来ているよ」
瑠璃子が、後ろの方を走っているアクエリア
スの姿を指差した。
「前回は、ここでエンジンが止まったとか連
絡が入って、Uターンさせられてしまったん
だったよな」
隆が、前回のことを思い出していた。
「今回は大丈夫よ」
「それは私もよ」
麻美子が、雪に言った。
「いや、麻美子はヨット教室の生徒じゃない
から、関係ないでしょう」
隆が、麻美子に言った。
「それはそうだけど。私も、ゆっくり上達派
だなってこと」
麻美子が、隆に答えた。
「とりあえず、朝ごはんを作ろうか」
麻美子は、陽子を連れて、朝ごはんを作りに
「なんか、それを聞いて安心した」
陽子が、隆に言った。
「周りの生徒が上達していても、自分はゆっ
くり一つ一つ時間をかけて覚えていっても良
いってことだものね」
「いや、陽子ちゃんは、上達しているよね」
瑠璃子が、陽子に言った。
「そうよ、何年かかけて、ゆっくり上達して
いくことになりそうなのは私だって」
雪が、陽子に言った。
「だから、横浜マリーナのヨット教室が終了
しても、そのまま乗っていたヨットには乗り
続けられるし」
隆が言った。
「スクール期間の半年間でヨットの操船をマ
スターしてしまう生徒もいれば、2年3年か
けてゆっくり成長していく生徒もいるぐらい
だし」
「そうなのね」
陽子が答えた。
「さすがに留年制度は無いな」
隆が答えた。
「レベルに達しないと卒業できないとか」
「それも無いな」
隆が返事した。
「そもそも卒業っていうのは、横浜マリーナ
のヨット教室が決めているスクール期間だけ
だからな」
「そうなんだ」
陽子が言った。
「別に、それでも良いんだけどさ」
隆が、麻美子たちに言った。
「香代みたいに、積極的にヘルムを握ってい
る生徒に対して、どんどん差をつけられてし
まうから、ヨット教室卒業の時のヨットレベ
ルが大きく開いてしまうぞ」
「そうか、それだとまずいかな」
雪が、隆に聞いた。
「ヨット教室って、留年みたいのあるの?」
陽子が質問した。
「瑠璃子、今回のクルージングで、まだ舵を
ぜんぜん握っていなくないか」
「うん。まだ明日でもいいよ」
瑠璃子は、答えた。
「雪も、まだ全然舵を取っていないよね」
「私は、別に舵は取らなくても良いかな」
雪は答えた。
「私たち、おばさんは、舵は若い子たちにお
任せでも良いのよ。ねぇ」
麻美子が、雪に賛成した。
「香代ちゃんが5時過ぎぐらいに目が覚めち
ゃったとかで起きてきて、それからしばらく
は、セイルトリムもしてくれていたのよね」
陽子が、隆に言った。
「それから、麻美ちゃんが起きてきてから、
ラットを変わりたいって言うから、それから
ずっと代わってもらったのよね」
陽子が隆に答えた。
「麻美子は何時頃に起きたの?」
「6時ぐらい」
「おはよう、良い天気だな」
隆が6時に起きてきた時には、もう既に皆起
きていて、デッキ上に出ていた。
「どこら辺まで来たか」
「大島の中間ぐらい、筆島のところ」
瑠璃子が、隆に答えた。
「また、香代がヘルムを取っているんだ」
隆が、コクピットでラットを握っている香
代の姿に気づいた。
「香代は、もうラッコのヘルマーだな」
ヨットのフォアキャビンは、船の船首に位置
しているので、走っている時のヨットでは波
を切り裂いて進んでいく構造上、揺れやすく
なっていた。
「雪って、よく船首で眠れるな」
そんなことを考えているうちに、いつの間に
か隆は眠ってしまっていた。
「瑠璃ちゃん、コースはわかった?」
「うん、大丈夫よ」
瑠璃子は、陽子に答えた。
隆は、もしかして雪が寝ているのかなと思い
つつも、ダイニングの仕切られているカーテ
ンを開けてみると、そこには誰も寝ていなか
った。
「なんだ、雪は、クルージング中でもフォア
キャビンで寝ているのか」
隆は、ダイニングのさっきまで瑠璃子と陽子
が寝ていたバースで1人伸び伸びと横になっ
て眠りについた。
「フォアキャビン揺れないのかな」
こんな真っ暗な中で、目覚ましも何もかけず
に寝ていたら、麻美子のやつぜったいに起き
てくるつもりもないなと隆は思った。
「俺、上の部屋で寝るわ」
真っ暗な中、手探りでベッドまでたどり着け
る自信もないので、隆はアフトキャビンで眠
るのは諦めて、入り口の扉をまた閉めた。
香代は、1人アフトキャビンの中に残り、
手探りでベッドによじ登ると、そこで寝て
いる麻美子の横に、横になると眠った。
陽子は、ラットを握りながら、キャビンに入
る香代と隆に声をかけた。
「中に入ろう」
香代が、アフトキャビンの閉じている扉を開
けて、室内に入った。
「真っ暗じゃないか」
香代の後ろから部屋の中を覗き込んだ隆は、
呟いた。窓のカーテンは、全部しっかり閉め
られていて、部屋の中は真っ暗だった。
「香代、ベッドの場所わかるか」
隆は、GPS航海計器のモニターを眺めなが
ら、瑠璃子に新島までのコース取りを説明し
ていた。
「俺も、朝の6時か7時には起きるし、どう
せ、それまでに、ぜったい大島を越えるとこ
ろまでなんか辿り着けないだろうけど」
隆が、瑠璃子に言った。
「俺が寝ている間は、宜しくな」
「おやすみなさい」
陽子は、隆に言った。
雪は、先にキャビンに入ると、いつも自分が
寝ているフォアキャビンで横になった。
「2人いれば大丈夫だろうから、もう東京湾
内の狭い海域も出てしまっているし」
隆は、瑠璃子に言った。
「俺も、少し寝るから任せて良いか」
ラッコは、観音崎を越えて、三浦半島の先っ
ぽ、剣崎の灯台辺りにいた。
「大島の外側を通って、新島に向かう感じで
進めばよいから」
香代は、隆に言われて頷き、陽子にラットを
代わってもらった。
「私も、ラット持っていないけど、だんだん
眠くなってきた」
雪が、隆に言った。
「ラットを握っていないから、眠くなってき
たのかもしれないぞ」
「確かに、それは言える」
雪が欠伸をしながら、隆に答えた。
「俺も、少し眠くなって来ているもの」
「それじゃ、もう少しお願いしようかな」
「でも、香代ちゃんって出航してからずっと
ラットを握ってない」
瑠璃子が香代に言った。
「香代、中で一緒に寝よう。少し寝ないと疲
れちゃうから」
隆が、香代に言った。
「ヨットの中で寝るのだって楽しいだろう。
クルージングに出た時でないと、ヨットのキ
ャビンの中で寝れるなんてないだろう」
「おはよう」
4時のウォッチ交代で瑠璃子と陽子が起きて
きた。瑠璃子は、寝過ごしそうになったのだ
が、横に陽子も一緒だったので寝過ごさずに
済んだのだった。
「香代ちゃん、ラットを代わろうか」
陽子が、香代に声をかけた。
「まだ、大丈夫だよ」
香代は、ラットを握ったまま、陽子に答えた
「まだ大丈夫なの?」
香代はラットを握っていた。雪も、ちょうど
ジブシートのトリムをしていた。
「それじゃ、私が先に寝てしまおうかな」
「良いんじゃない、寝れる時に寝ておいた方
が良いよ」
隆に言われて、陽子がキャビンに入った。
「私も先に寝ることになったの、一緒に横で
寝かせてもらっても良いかな」
「もちろん」
瑠璃子は、陽子に頷いた。
「さあ、寝ましょう」
麻美子は、アフトキャビンの中に入ると、入
り口の扉もしっかり閉めて、両サイドに付い
ている窓も、窓に付いているカーテンをしっ
かり閉めきって、部屋の中を真っ暗にしてか
ら眠りについていた。
「あれ、今キャビンに入ったのって、麻美子
と瑠璃子だけじゃないか」
隆が気づいた。
「後、1人だれか先に寝ても良いかも」
「良いじゃないの、別に起きられなかったら
朝まで寝ちゃっても大丈夫よ」
麻美子は、瑠璃子におやすみを言うと、アフ
トキャビンに移動して、眠りについた。
麻美子が、カーテンで仕切ってくれたおかげ
で、船体側に付いている小さい窓からの陸地
の灯り以外は真っ暗だった。
「私、本当に寝過ごしてしまいそう」
表では、香代がラットを握っていて、船は揺
れずに走っているし、ぐっすり眠れそうだ。
ダインングルームの中が、カーテンで仕切ら
れて、個室仕様に変わった。
「ね、窓のカーテンもしっかり敷いた方が暗
くなって寝やすいでしょう」
カーテンの隙間から中を覗き込みながら、麻
美子が瑠璃子に言った。
「でも、ウォッチ明けに起きなきゃならない
のに、あまり暗く寝やすくしちゃうと、私、
ぜったいに起きられなくなってしまう」
瑠璃子が、麻美子に言った。
「瑠璃ちゃんは恥ずかしいよね、前の自分の
ベッドで寝て良いわよ」
瑠璃子は、ダブルバースに変更し終わってい
たギャレー前のダイニングサロンのベッドで
横になった。
「こうすると、もっと落ち着いて眠れるんじ
ゃないかしら」
麻美子は、瑠璃子がベッドに入った後で、ダ
イニングとギャレーの間に取り付けてあるカ
ーテンを敷いた。
「香代ちゃんは、今夜はお母さんじゃなくお
父さんと一緒に寝るんだね」
雪が香代に言うと、香代は小さく頷いた。
なんとなく最近は、ヨットにいる間は、隆が
香代のお父さん、麻美子がお母さんになって
しまっていた。
「瑠璃ちゃん、一緒に後ろで寝る?」
「ええ、どうしようかな」
麻美子に聞かれて、瑠璃子がちょっと返事に
困っていた。
「香代ちゃん、先に寝ても良いってよ」
麻美子は、ラットを握っていた香代に声をか
けたが、香代はまだラットを握っていたいみ
たいだった。
「香代は、まだ眠くないってさ」
「そうなの?じゃ、香代ちゃんのウォッチは
後のグループにしてもらう?」
香代は、麻美子に頷いた。
「それじゃ、私が麻美ちゃんと先に寝る」
瑠璃子が、隆に返事した。
「ねえ、もう眠いんだけど」
ラッコが沖に出て、セイルを上げ終わってす
ぐに麻美子は、隆に伝えた。
「もう寝るの?」
「うん、だって、もう夜中の1時を回ってい
るわよ」
「麻美子の家って皆、夜は早寝だからな」
隆は、麻美子に言った。
「私たちが先に寝てもいい?」
「どうぞ、別にいいよ」
「うちも、出航しようか」
中村さんたちアクエリアスの皆も、すぐ隣に
泊めてあるアクエリアスに戻り、出航する。
「良いわよ、カップは片付けておくわ」
麻美子に言われて、陽子も外に出た。
「世界に行くんだ」
「うん、伊豆七島の世界へ」
隆は、陽子に答えた。
ラッコとアクエリアスは、ポンツーンに繋が
れていた舫いロープを外して、出港した。
「はい、陽子ちゃん」
麻美子が、陽子のカップを手渡した。
「ありがとう」
「陽子は一服していて良いよ」
隆は、陽子に言ってから、瑠璃子たちと出航
のため、キャビンの外に出た。
「私も大丈夫だって」
陽子が、隆に言った。
「一服は、海に出てからゆっくりしたいし」
陽子は、カップをテーブルに置いた。
「世界って」
陽子が、中村さんの言葉に苦笑していた。
「それじゃ、そろそろ世界へ出かけますか」
隆が、ラッコのエンジンをかけながら、皆に
言った。
「待ってよ、陽子ちゃんがまだ来たばかり」
麻美子が、隆に言った。
「お茶ぐらい飲ませてあげてよ」
麻美子が、陽子の分のお茶を準備していた。
「私は大丈夫、出かけましょう」
陽子が、自分の持ってきた荷物を片付けてい
るのを見て、中村さんが言った。
「うん、アクエリアスには、自分のマイカッ
プとか無いんですか?」
「無いね、そういうのは」
中村さんが、陽子に答えた。
「ラッコは、このまま、いつでも皆で世界中
に旅立っても大丈夫なぐらい、キャビンの中
が皆で生活しやすくなっているんだね」
キャビンを見渡して、中村さんが答えた。