「あら、ゆみちゃんは?」
お喋りに夢中になっていたゆり子先生は、ゆ
みが側にいないことに気づいた。
「おトイレかしら?」
「ゆみちゃんに、この家のトイレの場所なん
か教えていないけど」
「そうよね」
2人は、慌てて立ち上がって、ゆみの事を探
し出した。
「犬たちの方じゃないわよね」
「あら、ゆみちゃんは?」
お喋りに夢中になっていたゆり子先生は、ゆ
みが側にいないことに気づいた。
「おトイレかしら?」
「ゆみちゃんに、この家のトイレの場所なん
か教えていないけど」
「そうよね」
2人は、慌てて立ち上がって、ゆみの事を探
し出した。
「犬たちの方じゃないわよね」
ゆみは、犬たちのところに近づいて行くと、
そっと犬の背中を撫でてあげた。
年齢的には、3歳年上の良明は、ゆみがまた
泣き出すかもと心配していたが、犬たちは尻
尾を振って、ゆみに優しく撫でられていた。
「かわいいね」
ゆみは、犬たちのことを撫でながら、良明の
方へ振り向きながら話しかけた。
良明も、犬たちのことを撫でながら、ゆみに
頷いていた。
ゆり子先生は、飼い主と大人同士、ずっと日
本語でお喋りを続けていた。
2人の会話を聞いていてもよくわからないし
ゆみは居間を離れると、キッチンの方へ犬を
見に行った。
「かわいい?」
ゆみは、食事中の犬たちの側で撫でていた良
明に話しかけた。
良明が振り向いて、ゆみに頷いた。
「私も撫でてあげようかな」
3匹の犬たちは立ち上がると、リビングを出
て、奥にあるキッチンへと向かった。
「いつも、この時間になるとキッチンに置い
てあるドッグフードを食べ始めるのよ」
飼い主が、ゆり子先生に説明した。
良明は、犬たちについてキッチンに行くと、
食事中の犬たちのことをずっと眺めていた。
「あの男の子は、この間もきていたけど、も
うすっかりうちの犬たちとも慣れたわね」
「ええ、元々動物が好きみたいよ」
「私も驚いたわ」
「家でも自分の犬を飼っているって話してい
た子なんだけどね」
ゆり子先生は、飼い主と居間で話していた。
ゆみは、泣き疲れて、今はその横でおとなし
く座っていた。
良明は、リビング手前のスペースで犬たちと
遊んでいた。
「そろそろ夕食の時間だわ」
飼い主が、ゆり子先生に言った。
き上げた。
「ゆみちゃん、大丈夫」
ゆり子先生は、泣いてしまったゆみの事を抱
き上げてくれた。
「ゆり子さん、連れて来る生徒さんって、こ
んな小さな女の子だったの」
飼い主は、ゆり子先生に言った。
「高学年だっていうから、まさかこんな小さ
い子とは思わなかったわ」
飼い主は、冷や汗をかいていた。
驚いてしまったゆみは、思わず階段を上階途
中まで逃げ出してしまうと、そこでしゃがみ
込んでしまった。
「嫌だ、やめて」
3匹の大きな犬たちは、ゆみの周りにやって
来ると嬉しそうに尻尾を振りながら、身体の
小さなゆみの事を囲んでしまっていた。
「こら!ハウス、ハウス!」
飼い主とゆり子先生が犬たちを部屋の中に追
い払うと、しゃがみ込んでいるゆみの事を抱
ゆり子先生は、ゆみに答えた。
ワオワンワンワンー!
玄関扉が開いて、中から人間よりも先に大型
の犬が3匹飛び出してきた。
「きゃ!」
大きな犬たちは、尻尾を振りながら、ゆみ達
の元へ飛び付いてきた。ゆみよりも遥かに大
きな犬たちは、初めて嗅ぐゆみの匂いに興味
津々で飛びついて来た。
「あ、嫌だ!」
ゆり子先生は、エレベーター降りて右側の玄
関扉のベルを押した。
「あ、ワンちゃんの声」
「すごいでしょう」
部屋の中からは、鳴らしたベルの音よりも遥
かに大きな大型犬の鳴き声が響いていた。
「ゆみちゃんは犬は大丈夫?」
「はい。家にも、メロディって白と茶のテリ
ア犬がいるもの」
「それなら大丈夫ね」
アパートメント正面にあるエレベーターに乗
って、良明は2人の事を待っていた。
「ご苦労さん、エレベーターボーイ」
ゆり子先生は、良明に言うと、ゆみと一緒に
エレベーターへ乗り込んだ。
「上へ参りますー」
エレベーターが上昇し、停まって扉が開くと
左右に上り下りする階段があって別フロアへ
移動できるようになっていた。
左右に各室への玄関扉が付いていた。
「よく覚えているわね」
ゆり子先生は、良明の後をゆみと歩きながら
前を歩いて行く良明の事を言った。
「犬のところに行くの?」
「そうよ」
前方を行く良明は、斜め向かいのアパートメ
ントの中へと入って行った。
「あそこのアパートメント?」
「そうなのよ」
ゆり子先生は、ゆみに返事した。
「そうなの?」
「うん。良明くんって先生のこと好きよ」
ゆみは、ゆり子先生に答えた。
「そうか、ゆみちゃんは良明くんの事は?」
「私は好き。クラスメートだし、お友達だと
思っているけど、良明くんは何とも思ってく
れないの」
ゆみは、寂しそうに答えた。
良明は、お店の前の交差点を斜めに渡って、
向かい側のアパートメントへと歩いていた。
ゆみは、良明の顔を見た。
「うん、彼女のことだね」
店員が、ゆみのことを指差した。
「そうかもしれないわね。彼女は、いつも良
明くんに優しいもの」
ゆり子先生も店員に答えて、すっかり良明の
好きな人はゆみということになっていた。
「たぶん先生のことだと思う」
ゆみは、店を出て通りを歩きながら、ゆり子
先生に言った。
「さて、なんて書いてあるかな?」
ゆり子先生が、良明の手にしているフォーチ
ュンクッキーの紙を指差しながら、良明に声
をかけた。
「好きな人ができますって書いてある」
ゆみが、良明の紙を読んだ。
「あら、大変」
ゆり子先生が驚いてみせた。
「ゆみちゃんかな」
「え、私?」
「こうやって食べるのよ」
ゆみは、自分のフォーチュンクッキーを半分
口に入れると、中に入っているラックが書か
れている紙を取り出してみせた。
「半分だけ噛んで」
ゆみは、良明のフォーチュンクッキーを口元
に持っていき、良明に半分噛んでもらった。
「ほら、これが良明くんのラックよ」
ゆみは、フォーチュンクッキーの中から紙を
取り出すと、良明に手渡した。
店員が、ゆみに言った。
「ラックが1番のを選ばなきゃよ」
ゆみが、良明に聞いた。
「どれにする?これ?」
「うん」
良明が頷いた。
「じゃ、これにしようか」
ゆみは、良明の頷いたフォーチュンクッキー
を1つ取ると、良明に手渡した。
「食べ方知っている?」
ゆり子先生は、店員の持っているお皿の上の
フォーチュンクッキーを1つ手に取った。
「ゆみちゃんは?」
「はい」
ゆみも、店員のお皿から1つもらった。
「良明くん、どれにする?」
ゆみが聞くと、良明は首を傾げた。
「これにする?こっち?」
ゆみが指差すと、良明が頷いた。
「どれにするかでラックが違うよ」
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
ゆり子先生は、2人に言った。
「それともデザート食べる?」
「私、もうお腹いっぱい」
ゆみは、ゆり子先生に答えた。
「それじゃ、もう行きましょうか」
3人がテーブルを立ち上がろうとしている時
店員さんがフォーチュンクッキーを持って来
てくれた。
「このぐらいなら食べられるわよね」
ゆり子先生は、柱の陰から2人を眺めながら
近くにいた顔見知りの店員と話していた。
「先生の教え子ですか?」
「ええ、まあ」
ゆり子先生は、店員とおしゃべりしていた。
「あら、全部食べたの」
2人が食べ終わる頃に、ゆり子先生はテーブ
ルに戻って来た。
「うん、全部食べたよね」
ゆみは、良明に話しかけた。
「あら、ゆみちゃん」
トイレから出て来たゆり子先生は、テーブル
でゆみが良明に食べさせている姿を見つけて
呟いていた。
そのまま、テーブルには戻らずに、柱の陰か
ら、2人が食事しているのをそっと眺めてい
るのだった。
「彼女は優しいね」
「ええ」
「彼の方は恥ずかしがり屋さんで」
「ね、すごく美味しいよ」
ゆみは、良明のお皿からフォークで料理をす
くうと、良明の口元へ持っていった。
「はい、どうぞ」
ゆみが、良明に食べさせた。
「美味しい?」
ゆみが聞くと、良明は頷いた。
「よかった!はい、どうぞ」
ゆみは、さらに料理フォークで取ると、良明
の口元に持っていき食べさせていた。
「食べたくなければ、食べなくて良いわよ」
ゆり子先生は、自分の分を食べ終わると、良
明にそう言い残して、トイレへ行った。
「食べないの?」
ゆみが、良明に聞いた。
「お腹空いちゃうよ」
ゆみは、トイレの方を見たが、ゆり子先生は
しばらく戻って来そうもなかった。
良明の横、ゆり子先生の席へ移動した。
「ねえ、一緒に食べようよ」
「この間、先生と2人で来た時は、普通に食
べていたでしょう」
そう言うと、その後は、ゆり子先生は良明の
ことは全く気にせず食事を続けていた。
「美味しいよ」
ゆみは、チラッと良明に声をかけたが、ゆり
子先生が見るなと言うので、なるだけ良明の
方は見ないように食事していた。
良明は何も口にせず、目の前のお皿には料理
が残ったままになっていた。
「良明くん、食べないの?」
ゆみが、良明に聞いた。
「良明くん、こっち側においで」
ゆみが、横の空いている席を指差した。
「こっち側で一緒に食べよう」
ゆみは、いつも学校のお昼の時のように、良
明に食べさせてあげようと思っていた。
「ゆみちゃん、大丈夫だから良明くんの方は
見ないようにしてあげて
ゆり子先生が、ゆみに言った。
「そうなのね。ゆみちゃん小柄だものね」
ゆり子先生は答えた。
「先生と半分ずつにしようか」
ゆみは、ゆり子先生に頷いた。
ゆり子先生が、メニューを注文した料理が順
番にテーブルへ運ばれてきた。
「食べましょう」
「いただきます」
ゆみとゆり子先生は、食事を食べ始めた。
良明は、椅子に腰掛けたままだった。
ゆみも、ゆり子先生に頷いた。
「エビチリとかも食べようか」
「辛い?」
「大丈夫、マイルドにしてもらいましょう」
ゆり子先生は、ゆみに言った。
「チンジャオロースは?」
「うん、好き」
ゆみは、ゆり子先生に答えた。
「でも、私は、そんなにたくさんは食べられ
ないの。いつもお兄ちゃんと半分ずつ」
の向かい側の席にl腰掛けた。
「何を食べようか?」
ゆり子先生は、ゆみに聞いた。
「良明くんは焼きそばかな?」
良明は、ゆり子先生に頷いた。
「良明くんって焼きそばが好きなの?」
「そうなのよね」
ゆり子先生が、ゆみに答えた。
「知らなかった」
「ゆみちゃんは、焼きそば好き?」
入り口に小さなレジカウンターがあって、奥
には20テーブルほどの座席がある小ぢんま
りした中華レストランだった。
「こんばんは」
ゆり子先生は、奥の調理室入り口に立ってい
た店員に挨拶すると、そのまま中央の4人席
に腰掛けた。
「良明くん、こっちの奥に座りなさい」
ゆり子先生は、自分の腰掛けた座席の奥側に
良明のことを座らせた。ゆみは、ゆり子先生
中へ入りながら、ゆみに声をかけた。
「ここのお店?」
「そうよ」
雑居ビルの入り口には、上へと上がっていく
長い階段が続いていた。ゆみは、ゆり子先生
の後に続いて、その階段を上がった。
「あ、良明くん」
階段の上には、良明の姿があった。
「さあ、お店の中へ入りましょう」
ゆり子先生は、2人を連れて店内へ入った。
ゆみ達も、交差点を左折した。
「え、入ってしまったよ」
ゆみが、ゆり子先生に言った。
左折すると、ちょうどその先の雑居ビルの中
に入って行く良明の姿が見えた。
「大丈夫かな」
ゆみは、慌てて良明の入ってしまった雑居ビ
ルの中を確認しに行った。
「良明くんの道で合っているわよ」
後から走ってきたゆり子先生も、雑居ビルの