昨日、中等部の入学式を終えたばかりだが
小等部からの進級組の祥恵には、小等部から
の同級生、友達がたくさんいた。
逆に、2年から飛び級して来たばかりのゆみ
には、まだこのクラスに友達はいなかった。
「さあ、授業を始めます」
担任の佐伯先生が教室にやって来た。教室の
後ろでお喋りしていた祥恵も、他の生徒たち
も自分の席に戻っていた。
「今日から7年生の授業が始まります」
佐伯先生は、皆に伝えた。
昨日、中等部の入学式を終えたばかりだが
小等部からの進級組の祥恵には、小等部から
の同級生、友達がたくさんいた。
逆に、2年から飛び級して来たばかりのゆみ
には、まだこのクラスに友達はいなかった。
「さあ、授業を始めます」
担任の佐伯先生が教室にやって来た。教室の
後ろでお喋りしていた祥恵も、他の生徒たち
も自分の席に戻っていた。
「今日から7年生の授業が始まります」
佐伯先生は、皆に伝えた。
佐伯先生は、1組の朝のホームルームを終え
ると、職員室へ戻っていった。
「英語を始めます!」
副担任の塚本先生は、そのまま教室に残って
1時限目の英語の授業となった。
「英語の授業は、中等部で初めて習う授業に
なりますよね」
塚本先生は、皆に言った。
「最初は取っつきづらいかもしれないけど、
少しずつ英語に慣れていってもらえたら嬉
しいです」
「ハロー、アムユミ。アムジョイニングジャ
パン、ライクイット」
ゆみは、塚本先生に指されて、英語の構文を
流暢に読み上げた。
「とても良い発音ですね」
日本の学校では、あいうえお順の初めの方に
属する今井の姓は、最初の授業ではいつも始
めに指されてしまうのだった。
「ベリーグッド、きれいな英語ですね」
塚本先生は、ゆみに言った。
「サンキュー」
「ニューヨーク帰りのあんたは、そりゃ英語
は得意だものね」
授業が終わった後で、祥恵はゆみに言った。
「ね、お姉ちゃん」
「なに」
「さっきの正英くんって、お姉ちゃんの好き
な人なんだよね」
「何言ってるの、ばかじゃないの」
祥恵は、ゆみに言った。
2時限目は、逆にゆみの不得意な日本語、現
国の授業だった。現国の担当は佐伯先生だ。
「ゆみ、体育館に移動だよ」
現国の授業が終わると、次は体育だった。
「体育館ってどこなの?」
「あんたが、お母さんと入学式に出た場所」
「あそこか」
ゆみは、入学式の時のことを思い出した。
「祥恵、体育に行こう」
教室の後ろの席から永田ルリ子と狩野百合子
が祥恵のことを誘いに来た。
「うん、行こう!」
祥恵は、席を立ち上がった。
「ゆみ、体育館は1人で行けるよね」
祥恵は、ゆみに言った。
「私、先に行くから」
祥恵は、ゆみを置いて行こうとした。
「ゆみちゃんも一緒に行こう」
狩野百合子が、ゆみに言った。どうして、こ
の人は私の名前を知っているのだろうと、ゆ
みは思った。
「ゆみちゃんでしょう?祥恵の妹の」
「はい」
「一緒に行こう」
「ゆみは、1人でも行けるから大丈夫よ」
祥恵が、百合子に言った。
「1人でも行けるかもしれないけど、私と一
緒に行っても良いでしょう」
百合子は、ゆみの手を握りながら、祥恵に返
事した。
「祥恵はさ、なんでこんな可愛い妹がいるの
に、私達に紹介しないのよ」
ルリ子が、祥恵に聞いた。
「祥恵がちっとも紹介しないから、私達の方
からゆみちゃんに声かけちゃった」
それから、ゆみは百合子に手を繋がれながら
体育館へと向かった。
「そっち側だよ」
百合子は、体育館の入り口から入ると、左側
奥の扉にある女子更衣室へと入った。
「ちなみに、右側奥は男子更衣室ね」
百合子が、ゆみに説明した。
「私、更衣室の中入るの初めて」
「そうなの?」
「だって、体育は、いつも見学だから」
「見学なの?」
「その子はね、体が弱いから、いつも体育の
授業は見学なのよ」
祥恵が、ゆみに代わって百合子に説明した。
「体が弱くて見学か」
「百合子には考えられないよね」
「本当に」
生まれてから病気だって、風邪ぐらいしかひ
いたことのない百合子には、体育を見学なん
て考えられなかった。
「お姉ちゃんってブラジャーしてるの!」
ゆみは、Tシャツを脱いだ祥恵に驚いた。
「ブラジャーぐらいするでしょうが、女だも
祥恵は、ゆみに言い返した。
「でも、祥恵はあまりブラジャー必要ないぐ
らい胸ペタンだけどね」
7年生でも、もうかなり胸が大きく膨らんで
きているルリ子が、Tシャツを脱いで着替え
ながら言った。
「お姉ちゃんも、おっぱい膨らんできている
んだね」
「ゆみちゃんも、そのうち大きくなるよ」
百合子が、ゆみに言った。
「祥恵ぐらいの膨らみだったら、ゆみちゃん
もすぐに追い抜けるって」
ルリ子が、祥恵の小さな膨らみを笑った。
「正英がいつも描いている祥恵の横顔イラス
ト、いたずら描きも胸はぺったんこだよね」
「正英くん」
ゆみが呟いた。
「正英くんって、お姉ちゃんの好きな?」
「え、祥恵そうなの!?」
ルリ子が、祥恵に聞いた。
「そんなわけないじゃん!」
「え、祥恵ってそうだったんだ」
「いや、だから違うって」
祥恵は、ルリ子だけじゃなく百合子にまでも
言われて、慌てて否定した。
「本当、違うんだから」
祥恵は言った。
「っていうか、ゆみは別に着替えないんだか
ら、早く更衣室から外に出て、表で待ってい
なさいよ」
ゆみは、姉に女子更衣室から表へ追い出され
てしまっていた。
ゆみは、女子更衣室から出ると、体育館の中
で体育の授業が始まるのを待っていた。
「今日の体育は何をやるのだろう」
「バスケだといいね」
しばらくすると、祥恵たちが体操着に着替え
終わって女子更衣室から出てきた。祥恵とル
リ子の2人は、女子バスケ部員だった。
百合子は、部活は何もしていなかった。
「今日は、ポートボールだってさ」
3人とも運動は、生まれつき1番の得意で、
体育の授業は誰よりも1番動き回っていた。
「ゆみちゃんのお昼ってそれだけ?」
お昼休憩で、ゆみがお母さんの作ってくれた
お弁当を食べていると、百合子が覗きこみな
がら、ゆみに聞いた。
「あんまり食べると、逆にお腹がおかしくな
ちゃうからね」
祥恵が、百合子に答えた。
「ゆみちゃんって、本当に体があまり強くな
いのね」
明星学園には、食堂も給食もないため、お昼
ごはんは各自でお弁当持参だった。
「ゆみちゃん、仕事だよ」
育成部門の担当者が、新しいホームページ依
頼の仕様書を持って、ゆみのデスクにやって
来た。
「赤い色ベースでのホームページね」
「だってさ、なんかシャアのような真っ赤な
ホームページで。スポーツカーを大きくイメ
ージさせたものして欲しいんだってさ」
「了解です」
ゆみが直接、受講者の方とやり取りするので
は無く、育成部門の担当者が窓口だった。
受講者たちは、まずうちの会社のオンライン
通信教育講座を申し込む。
その後、インターネット中古車オークション
会場の入会手続きをしておいて、その間に最
寄りの警察署へ走り、古物商許可証を取得し
てくる。
それから、自身でホームページを作ったり、
ゆみにホームページの制作を依頼したりする
のだった。
そして、ゆみがホームページを作っている間
に、海外バイヤーとの交渉を始めるのだ。
最初のうちは、受講者たちが交渉するための
海外バイヤーも、ゆみが作った会社の英語サ
イト、海外バイヤー向けホームページから分
けてあげなければならない。
「海外バイヤーを分けてもらえるのですね」
そのうち、ゆみが受講者から依頼されたホー
ムページを作り終わって、そのホームページ
から海外バイヤーのオファーが来始めると、
受講者は自分のホームページから来た海外バ
イヤーと直接やり取りして、海外から車の注
文を取れるようになっていくのだった。
「やばいな、遅刻しちゃうかもな」
今井隆は、愛車のオールズモービルを運転し
ながら呟いた。
このオールズモービルは、7年前に亡くなっ
た父が運転していた車だった。父が大切にし
ていたその車を、隆が未だに大切に乗り続け
ているのだった。
「なんとか間に合ってくれ」
マンハッタンからジョージワシントンブリッ
ジを渡ると、郊外に在るジョンFケネディ空
港を目指してフリーウェイを飛ばしていた。
会社でちょっとしたトラブルがあり、空港へ
向かう出発時間が少し遅れてしまっていたの
だった。
「やれやれ、なんとか間に合いそうだ」
今井隆は、父から引き継いだオールズモービ
ルを空港の駐車場に停めた。
「ラッキー!日本からの便は多少到着が遅れ
ているじゃん」
隆は、空港の到着案内を確認していた。
「さてと」
隆は、ホッとして一息ついていた。
隆は、バッグから『ウェルカム岡島様』と書
かれたウェルカムボードを取り出すと、日本
からの便が着く到着ロビーへと向かった。
今日、日本からここに到着する岡島さん一家
のお出迎えにやって来たのだった。
会社の上司の家族で、総務部に配属している
隆にとって、転勤して来る社員家族のお出迎
えや彼らのニューヨークでの生活を支えると
いうことは大切な業務の一つだった。
「岡島さんの奥さんとは、妹が生まれて以来
久しぶりの再会だな」
「隆くん」
隆は、ウェルカムボードを広げようとしてい
たちょうどその時に、背後から声をかけられ
て振り向いた。
「あ、岡島さん!ようこそ、NYへ」
隆は、岡島さんの奥さんに気づき、慌てて挨
拶をした。
「お久しぶり」
「このボード、せっかく作ってきたけど、要
らなかったですね」
隆は、岡島さんに答えた。
「要らないわよ、隆くんのことはすぐにわか
ったわよ。何年もの付き合いじゃない」
「俺もわかるとは思ったんですけど、あれか
ら何年も経っていますし」
隆は、笑顔で岡島さんの奥さんに答えた。
岡島さんは会社の上司でもあるが、奥さんは
隆の亡くなった母親の大学時代に仲の良かっ
た大親友の同級生でもあった。
「ゆみちゃんは元気?」
「ええ、おかげさまで」
隆は、岡島さんの奥さんに返事した。
「隆さんよ」
岡島さんの奥さんは、自分の子供たちに隆の
ことを紹介した。
「こんにちは、もしかして美香ちゃん?」
「はい!」
3人いる女の子の中で1番大きい子が、隆に
元気に答えてくれた。
岡島さんの家族は、3人の女の子以外に、大
きな男の子が1人いた。
「君が美香ちゃんか、うちの妹と同い年なん
でしょう」
「そうよ」
岡島さんの奥さんが、隆に答えた。
「学校は、家の近くの公立小学校で良いんで
すよね」
「ええ」
「それなら、うちの妹と同じ学年のクラスに
通うことになるかもしれない」
「そうなんだ、それだと心強い」
美香は、隆に言った。
「妹と仲良くしてやってくれな」
美香は、隆に言われて頷いていた。
隆は、岡島さん達と駐車場の車に戻ると、岡
島さんたちの荷物をトランクに入れた。
「良明も手伝いなさいよ」
「はい」
岡島さんの息子が、スーツケースを持ち上げ
てトランクに入れた。
「お、力持ちだね」
「いえいえ」
「体つきも大きくて、スポーツとか得意そう
じゃないか」
隆は、良明のがっしりした肩を触った。
「良明は、日本では野球していたのよ」
「へえ、こちらにいる日本人の子同士でも、
よく近くの公園で野球してますよ」
隆は、岡島の奥さんと話していた。
「本当に懐かしいわ」
岡島の奥さんは、助手席から運転している隆
見ながら話しかけていた。
「あの当時は、本当にお世話になりました」
「ううん、元気そうで何よりだわ」
岡島の奥さんは、7年ぶりの再会を懐かしそ
うに隆と話していた。
十年前、隆の母親は出産のため、ニュージャ
ージー州の病院にいた。
18歳、高校卒業間近の隆のすごく歳が離れ
た妹が生まれようとしていたのだった。
「お母さんは大丈夫よ、大丈夫だから」
隆の横には、大学時代からの親友だった岡島
さんが付き添ってくれていた。
オギャーオギャー!
少し難産ではあったが、妹のゆみは無事誕生
した。しかし、未熟児で生まれた妹は、しば
らく未熟児室から出ることはできなかった。
それでも、ようやく未熟児室から出て、父親
が迎えに来て、母子ともに退院となった。
退院の朝
病院のエントランスロビーに飛び込んできた
大型トラックに巻き込まれて、隆たちの両親
は亡くなってしまった。即死だった。
「え、お父さん!お母さん!」
事故の時、たまたま妹を抱きかかえてエント
ランスのソファに腰掛けていた隆は、妹とも
どもトラックの事故には巻き込まれずに助か
ったのだった。
病院の職員たちが担架を抱えて、すぐに飛び
出して救助してくれた。
しかし、父と母は即死だった。
「うそでしょう、これから妹と2人だけで、
どうしたら良いんだよ」
隆は、幼い妹を抱えて呆然としていた。
3月
ジャパニーズスクールに通う隆にとっては、
高校卒業間近のことだった。
高校を卒業したら、隆1人で帰国して、日本
の大学へ入学することが決まっていた。
「隆は日本へ帰ってきなさい」
日本の祖父母や親族は、1人残された隆に提
案していた。
「日本に帰国するなら妹も連れて行く」
隆は、祖父母や親族たちに伝えていた。妹は
少し前に未熟児室から出てきたばかりで身体
がまだ弱い子だった。
日本行きの長時間の飛行機に搭乗できるだけ
の体力も持ち合わせていず、日本へ帰国する
ことはできなかった。
「アメリカは福祉がしっかりしているのよ」