「私は6年だけど、ゆみはまだ1年生なの」
「私もお姉ちゃんと一緒のクラスでいいわ」
「一緒のクラスでいいわじゃないの、あんた
は1年、私は6年生なの」
祥恵は、再度妹に説明した。
「嫌だ!お姉ちゃんと一緒がいい!」
「わがまま言わないの!教室に早く入って自
分の席に着きなさい!」
ゆみは、姉に言われて教室の一番手前奥にあ
る今井と書かれた席に腰掛けた。
「ゆみ、1人でも頑張るのよ」
「私は6年だけど、ゆみはまだ1年生なの」
「私もお姉ちゃんと一緒のクラスでいいわ」
「一緒のクラスでいいわじゃないの、あんた
は1年、私は6年生なの」
祥恵は、再度妹に説明した。
「嫌だ!お姉ちゃんと一緒がいい!」
「わがまま言わないの!教室に早く入って自
分の席に着きなさい!」
ゆみは、姉に言われて教室の一番手前奥にあ
る今井と書かれた席に腰掛けた。
「ゆみ、1人でも頑張るのよ」
「きっと、お母さんだったらお姉ちゃんと同
じ教室にしてくれただろうな」
ゆみは考えていた。
教室にいる他の子たちだって、ゆみと同じ今
日から1年生の初めて会った子たちばかりの
はずなのに、もうクラスの子同士仲良くなっ
て、いまテレビで流行っている番組の話など
いろいろとお喋りをしていた。
それまでずっとニューヨークで暮らしてきた
ゆみには、いま流行っている日本のテレビ番
組なんか何も知らなかった。
それより何よりも、ニューヨークでは、家に
いたおじいちゃんやおばあちゃんとも殆どず
っと英語で会話していて、日本語はたまにし
か話してこなかった。そのおかげで皆の会話
の内容がよくわからなかった。
「もっと、向こうでもちゃんと日本語で話し
ていればよかったな」
今更、後悔しても遅かった。
「ハロー、ユミ。日本語ワカリマスカ」
男の子が笑いながら、ゆみへ外国人風に話し
かけてみせて、クラスの皆が笑っていた。
2週間後
こいつ、日本人のくせに、日本語がわからな
いの。なんか日本語の発音も変だしな、クラ
スの子たちは、ゆみの話す日本語を笑うよう
になっていた。
「ゆみさん、大丈夫ですかね?」
クラスの子たちにイジメられているゆみのこ
とを心配した担任の先生は、母親に電話して
事情を説明した。
「あなたはどう思いますか?」
「そうだな、母親のおまえに任せるよ」
母親は、ゆみのことを気遣い、別のインター
ナショナルスクールにでも転校させようかと
考えていた。
「転向させるのか?」
父親に相談したら、父は近所の公立小学校に
わせる方が良いんじゃないかと言った。
「ゆみ、皆と勉強するの辛いでしょう?」
母親は、ゆみに聞いた。
「学校を変わるの」
「その方が良くない?」
「いや!お姉ちゃんと同じ学校がいい!」
「今のクラスで大丈夫なの?」
母親は、ゆみに確認した。
「お姉ちゃんと同じ学校がいい」
「いじめられたりしない?」
「それでも、お姉ちゃんと通学したい」
ゆみは、大好きな姉と違う学校には行きたく
ないと母親にお願いした。
「あなたがそう言うのならば」
そして、ゆみは1年間ずっと毎日姉と一緒に
学校へ通って、授業が終わると姉の帰り時間
まで待って、一緒に学校から帰ってきた。
「ゆみさんは勉強ができるので次の4月の進
級は飛び級になります」
1年が過ぎて、2年生へ進級するとき、母親
は担任の先生からそう伝えられた。
「飛び級?なんだよ、それは?」
実家がニューヨークの母親にとっては、アメ
リカでは飛び級など珍しくもなかったが、祖
父の代からずっと東京の東松原で歯科医院の
父親にとっては、飛び級なんて制度は全く聞
いたこともない制度だった。
「ほお、ゆみはそんなに頭が良いのか」
明星学園は、日本に在りながらアメリカ的な
自由教育が学校のポリシーなので、飛び級制
度もどんどん取り入れていた。
といっても、実際に飛び級になる生徒は、学
園創立以来、ゆみが初めてではあった。
「祥恵、このスカート可愛くない」
お母さんは、学生服の広告チラシを見ながら
祥恵に声をかけた。
「うちの学校には、制服は無いんだけど」
「制服が無くても良いじゃない、中学生なん
だから入学式ぐらい制服っぽいの着ても」
「ゆみだって、飛び級で中学生になるのだか
ら、ゆみに着せれば良いんじゃないの」
祥恵は、母親に言った。
「あの子は、昔からスカートは、絶対にはか
ない子だから無理よ」
お母さんは、残念そうに呟いた。
アメリカで育ったせいか、ゆみは小さい頃か
ら母親がどんなに言っても、絶対にスカート
をはくことはなかった。
「あの子、本当にスカート嫌いなのよね」
母親は、残念そうに呟いた。
「ゆみ、中学生の記念にお母さんと写真撮り
にいかない?」
「写真は良いけど、それは着ないよ」
ゆみは、お母さんが手に持っている赤いチェ
ックのプリーツスカートを指差した。
ニューヨークにいた頃に、お母さんがデパー
トで勝手に買ってきた唯一のゆみが持ってい
るスカートだった。
「中学生でも、スカートはかないの?」
母親は、ゆみに聞いた。
「お姉ちゃんだってスカートはいているよ」
「もうずっと大人になってもスカートはかな
いつもりなの?」
お母さんは、祥恵のはいているグリーンのデ
ニムスカートを指差しながら言った。
「はかない」
ゆみは、首を大きく横に振った。
「シャロルも、大人になってもスカートはか
ないって言っていたよ」
シャロルは、ニューヨークのゆみの友達だ。
「彼女はずっとアメリカ暮らしだからね」
母親は、ゆみの頑固さに首を振っていた。
「彼女は、小学校で習う勉強はほぼぜんぶ理
解してしまっています」
進級会議の時、ゆみの担任の先生は他の教師
たちに説明していた。担任ではないが、ゆみ
に別の教科を教えたことのある先生も、確か
に彼女の勉強の進捗は早く、もう小学校で習
う必要はないのかもしれないと同調した。
「それでは、中等部への進級にしますか」
そして、ゆみは1年から2年ではなく中等部
1年、明星学園では7年生と呼んでいる学年
への進級が決まった。
武蔵野に在る明星学園は、小学校、中学校そ
して高等学校がぜんぶ揃った小中高一貫教育
の学園である。
中等部、高等部でいちいち1年生へ戻らずに
7年、8年と続いていき10年、11年、1
2年と進級、そして卒業となっていく。
「今日から7年生だね」
祥恵は、リボンの付いた白いブラウスに制服
風のチェックのプリーツスカートを着て、学
校へ出かけるため玄関先で靴を履いていた。
「行ってきまーす」
「あんた、もう出かけるの?ゆみがまだ部屋
にいるじゃないの」
「お母さんが連れてきてよ」
祥恵は、もう中学生なんだし母親が入学式に
いちいちついて来なくてもよいと言ったのだ
が、母親は、ゆみの晴れ姿を見に行くのだと
言い張っていたのだった。
「行ってきまーす!」
祥恵は一人で出かけてしまった。
「行ってらしゃい」
母親は、姉の出かける姿を見送っていた。
「仕方ないわね、ゆみはお母さんが一緒に連
れて行くか」
どこか嬉しそうに、お母さんは呟いていた。
「あれ、お姉ちゃんは?」
「ゆみは、お母さんと一緒に行きましょう」
「お母さんと学校に行くの?」
ゆみは嬉しそうに、お母さんの小さな赤いベ
ンツの助手席に腰掛けていた。
「ゆみは、本当に入学式はスカートはいてい
もいいのね?」
ゆみは、お母さんに頷いた。
「ほら、着いたわよ」
やっぱり、いつもお姉ちゃんと電車で通って
いる時と違い、車だと歩かずに学校までいけ
るため、通学が早くて楽だった。
お母さんの朝は忙しいので、出発が遅くなっ
てしまって、中等部の入学式はもう既に始ま
ってしまっていた。
「もう体育館でやっているみたいよ」
「遅刻だね」
お母さんは、車を停めると、ゆみの手を引い
て体育館の中へ入る。
最前列のステージで校長先生たちが話してい
て、その前方に生徒たち、その後ろ側が父兄
席になっていた。
「あなた達の席は、前の席よ」
お母さんは、父兄席の後ろの方に空いている
席を見つけて、そこへ腰掛けると、横にいる
ゆみに言った。
ゆみは、生徒席には行かずに、お母さんの横
の空いている席に腰掛けた。
「あなたは、前の席だって」
そう言われても、ゆみは席を動かなかった。
「あらあら、しょうがない子ね」
お母さんは、ゆみの頭を優しく撫でていた。
「お姉さんが入学式なの?」
お母さんの隣に座っていたおばさんに、ゆみ
は質問されて答えられずにいた。
「お姉ちゃんもだけど、あなたも今日が入学
式なのよね」
お母さんの横でモジモジしていたゆみの代わ
りに、お母さんがおばさんに答えていた。
「あら、中学生なの?」
おばさんは、ゆみの小さい体を見ていた。
「そうよね」
お母さんは、隣のおばさんとすっかり仲良く
なって、入学式の間じゅう、ゆみのことや祥
恵のことを隣のおばさんとお喋りしていた。
「それじゃ、お姉さんも、ゆみちゃんもずっ
と明星学園なんですね」
「こっちは、まだ1年間だけですけど」
お母さんは、ゆみのことを指差した。
「うちの子も、小等部からなんです」
「そうなんですか、それなら、うちの祥恵と
友達かもしれませんね」
インターネットで誰もが当たり前のように通
販している時代だからか、中古車インターネ
ットオークション会場の入会方法で質問して
くる受講者は少なかった。
その代わりに、古物商許可証の取得方法で質
問してくる方は多い。まずどこで取得したら
良いのかがわからないのだ。
「最寄りの警察署で取得できますよ」
「ああ、わかりました」
そして、受講者は電話を切ると自宅近くの警
察署まで出かけていく。
「あのう、警察署で申請はできたんですが」
「はい、どうかしましたか?」
「なんか車を置いておくスペースはあるかと
聞かれてしまったのですが」
「はい」
「無在庫で始めたいと思っているので、駐車
場は準備するつもりなかったのですが」
「それは車を所有する際の車庫証明のような
ものです。自分の車が置いてある駐車スペー
ス、車1台分が置けるスペースを写真に撮る
などして提出してあげれば良いのです」
「なるほど!」
電話を切ると受講者は、再度警察署へ出向い
て、申請途中の手続きを終えてくる。
「はい、どうしました?」
「あのう、警察がうちに見に来ると」
「見せてあげてください」
「車を展示できるスペースじゃなく、家の前
の小さなスペースなのですが」
「何の問題もありません。向こうも展示場始
める場所を確認しに来るのではありません」
「そうなんですね」
「それじゃ、ゆみちゃんは中学1年生ってこ
とは、お姉ちゃんと同学年になるの?」
おばさんは、お母さんからゆみが飛び級で進
級したという話を聞いて、驚いていた。
「だから、本当は、あなたの席は新入生、前
の方の席なのよ」
お母さんは、再度ゆみに告げた。
「それは、ちょっと怖いわよね。他の皆は背
の高いお兄さんお姉さんばかりだものね」
おばさんは、新入生たちより背の低いゆみの
ことを優しくフォローしてくれた。
「しょうがない子ね」
お母さんは、ゆみの頭を撫でた。
「ほら、式が終わってしまったわよ」
お母さんは、ゆみに言った。結局、ゆみは式
の間ずっと新入生の席ではなく、お母さんの
横で式の進行をずっと聞いていたのだった。
「まずは、新入生から退席してください」
体育館に流れている放送で、前の席に座って
いた新入生たちが体育館を後にした。
この後、新入生たちは、教室でクラスミーテ
ィングがありますとアナウンスしていた。
「さあ、帰りましょうか」
新入生の後は、父兄席の両親たちが席を立つ
番だった。ゆみは生徒のはずなのに、父兄席
のお母さんと一緒に席を立った。
お母さんは、隣の仲良くなったおばさんと席
を立ち体育館を後にていた。
「あなたは、教室に行かないと」
お母さんは、ゆみに言った。
「お母さんは?」
「お母さんは、もう帰るわよ」
「それじゃ、私も一緒に帰る」
「だめよ、それじゃ授業をサボってしまうこ
とになってしまうでしょうが」
お母さんは、ゆみに注意した。
「ジョー」
隣の席だったおばさんが、職員室の中へ入っ
ていく生徒に声をかけた。
「あ、お母さん」
職員室のコピー機でコピーを取ろうとしてい
た生徒が、後ろから呼びかけられて振り向い
た。髪がもしゃもしゃ、フワッと天然パーマ
の髪型の少年だった。
「あんた、何組だったっけ」
「え、1組」
少年は、母親に返事した。
「あら、お嬢さんかと思ったわ」
お母さんは、髪がフワッとした少年の顔を覗
き込んで驚いていた。
「おジョーさんで正しいわよね」
おばさんは、自分の息子の頭を撫でながら、
お母さんに答えた。
「名前がジョーだものね、斎藤ジョー」
「それじゃ、おジョーさんでも正しいのね」
「おジョーさん」
お母さんとおばさんは、おばさんの息子、ジ
ョーの名前で笑いあっていた。
「あんたさ、ゆみちゃんのことを一緒に教室
へ連れていってあげてよ」
おばさんは、息子のジョーに言った。
「ゆみちゃんって、2年からあんたと同じ7
年に飛び級進級してすごいのよ」
「飛び級?」
「勉強ができるから、本来の学年を飛びこえ
て中学生へ進級しちゃったのよ」
「へえー、それはすごいな」
ジョーは、お母さんの後ろに隠れて小さくな
っているゆみの姿を覗きこんだ。
「どうせ、あんたも教室に行くんでしょう」
「いいよ」
ジョーは、自分の母親に答えた。
「ホームルーム始まってしまう前に、一緒に
行こうか」
ジョーは、ゆみに話しかけた。
「ほら、お兄さんと一緒に行ってきなさい」
お母さんも、ゆみに言った。
「お母さんは、帰ってしまうの?」
「お母さん、車の中で待っているから」
「ぜったい待っていてね」
ゆみは、お母さんの手を離すと、優しそうな
お兄さんの手を掴んだ。
「よし、行こう!」
ジョーは、ゆみと歩き出した。
「ゆみちゃんも1組なの?」
ジョーは、歩きながらゆみに質問した。
「わからない、お母さんに聞いてないもん」
ゆみは、ジョーに答えた。