ヨット教室物語・第81話

麻美子は、自分が生徒を迎えにきたせいかと

反省していたが、実はそうではなかった。

ヨット教室の生徒さんの振り分けは、麻美子

が迎えにくる以前から既にマリーナのスタッ

フ間で決めていて、クルージングヨット教室

の生徒さんたちは、もともと7:3で女性の

数の方が多いのだった。

ウララのようなレース艇たちに若い男性生徒

さんたちを先行して振り分けしてしまうと、

もうあと残りは、ほぼ女性の生徒さんしか残

っていないのだった。

ヨット教室物語・第82話

そのため、必然的にラッコへの振り分けは女

性ばかりになってしまうのだった。

「それじゃ、うちのヨットを案内しますね」

麻美子は、生徒たちに言うと、ラッコの船体

にキャタツをしっかり掛け直した。

隆のヨットは、横浜マリーナの海上に係留さ

れて保管されているわけではなかった。

横浜マリーナ内の敷地に船台というヨットの

船体を上に載せて保管しておける台車があっ

て、その台車の上にラッコのヨットを載せて

陸上で保管されているのだった。

ヨット教室物語・第83話

そのため、ヨットが陸上で保管されていると

きは、ヨットの船体に長いキャタツを立てか

けて、キャタツを登って船体のデッキ上に乗

り降りしなければならなかった。

「スカートじゃ上がれないものね。私と一緒

に下でお話しながら待っていようか」

生徒のうち永田瑠璃子は、その日はパンツで

なく、オーバーオールタイプのジャンパース

カートを着ていた。それを見て、麻美子は、

永田瑠璃子にそう伝えた。

「え、ぜんぜん大丈夫です」

ヨット教室物語・第84話

永田瑠璃子は、何の問題もなく手でスカート

をくるっと捲利上げると、上手にキャタツを

よじ登ってデッキ上に上がってしまった。

「うわ、さすが若い子は身体が柔らかくて機

敏だわね」

麻美子は、スルスルとロングスカートでキャ

タツをよじ登ってしまった永田瑠璃子の姿を

見て呟やいていた。

「私より上がるの上手ね」

むしろ、パンツしか着ない麻美子よりも、よ

り上手にキャタツを上がっていた。

ヨット教室物語・第85話

むしろ、キャタツの上り下りで苦労していた

のは、自分と同年代ぐらいの柏木雪だった。

柏木雪は、スカートではなくパンツを着てい

たが、うまくキャタツを登れずに、麻美子が

下でずっとしっかりキャタツを抑えてあげて

ようやく上まで登れたのだった。

「中に作業中の汚いおっさんがいるけど、オ

ーナーだから驚かなくて大丈夫よ」

麻美子は、一番最後にキャタツをよじ登って

デッキへ上がると、デッキ上にいた皆に声を

かけた。

ヨット教室物語・第86話

麻美子も、初めてこのキャタツを登ったとき

には、上手くよじ登れなかったものだ。

横浜マリーナの船台上への上り下りするシス

テムは、もう少し登りやすいシステムがある

と良いのにと麻美子は思っていた。

「そのドアを開けて、中へどうぞ」

麻美子は、一番ドアの近いところに立ってい

た中村陽子に声をかけると、中村陽子はドア

を開けて、ヨットのキャビンの中へ入った。

「おじゃまします」

他の皆も、キャビンの中へ入った。

ヨット教室物語・第87話

「いっらしゃい」

メインサロンの床板を開けて、中に入ってい

るエンジンの整備をしていた隆が顔をあげて

中村陽子に返事した。

「生徒さんたちは皆、若くてかわいい女の子

達ばかりよ」

麻美子は、隆が喜ぶかなと思いながら、そう

伝えたが、隆は別にそうでもなさそうだ。

隆自身は、ラッコに振り分けられる生徒さん

なんて皆、おそらく女の子ばかりだろうなと

は想定済みだ

ヨット教室物語・第88話

横浜マリーナでのクルージングヨット教室は

いつも毎年春から秋にかけて開催されていて

いつも生徒の比率は男性より女性の方が多い

から、男性生徒はレース艇に振り分けられて

しまい、隆たちのようなクルージング専門の

クルージング艇には女性生徒しか振り分けれ

なくなってしまうのも定番になっていた。

「ソファに座って寛いでいてね。いま温かい

お茶を淹れるわね」

皆は、パイロットハウス前方の一段下がった

ところにあるダイニングソファに腰掛けた。

ヨット教室物語・第89話

麻美子は、その手前にあるキッチンでお湯を

沸かして、紅茶とちょっとしたお菓子の準備

を始めた。

「お手伝いします」

永田瑠璃子と中村陽子が率先して、お茶の準

備をしている麻美子の側にいくと、麻美子の

手伝いをしてくれようとしていた。

「ね、今日はずっと1日お勉強してたから疲

れたでしょう?」

麻美子は、皆に聞いた。

「うん、知恵熱が出たかも」

ヨット教室物語・第90話

「そうよね、お茶淹れるから寛いでてね」

「ルリちゃんは、会社で経理のお仕事してい

るんだよね」

麻美子は、今日会ったばかりの永田瑠璃子と

もすっかり仲良くなってしまっていて、ルリ

ちゃんと呼ぶようになっていた。

永田瑠璃子だけでなかった。鈴木香代は香代

ちゃん、中村陽子は陽子ちゃん、柏木雪のこ

とだけは、雪さんと呼んでいた。

「なんで、柏木さんだけは雪さんなの?」

隆は、麻美子に聞いた。

ヨット教室物語・第91話

「だって、私より4歳も年上だもの」

「そんなこと気にしなくてもいいよ、雪って

呼んでくれていいよ」

雪は、麻美子に言った。

「へえ、麻美子よりも年上なんだ」

「そう、私がこの中で1番の年長者かな」

雪は、隆に答えた。

「そうなんだ。俺よりも年長なのか」

「だから、私よりも4歳年上だって言ってい

るじゃないの」

麻美子は、隆に言った。

ヨット教室物語・第92話

「麻美子より年上なのはさっき聞いたよ。俺

より上かなって聞いたんだけど」

「何を言っているの?」

麻美子は、隆のことを見た。

「私と隆って同級生だよね、私より4つ上だ

って言っているでしょう」

「あ、そうか。じゃ、俺とも4つ上なのか」

隆がやっと気づいたように言ったので、皆

はキャビンの中で大笑いになった。

「それじゃ、この中で1番の年下は?」

「香代ちゃん」

ヨット教室物語・第93話

麻美子は、隣の席に座っている香代の頭を撫

でながら、隆に答えた。

クラブハウスでの講義中に、ロープワークを

香代に教えてあげて以来、麻美子と香代はす

っかり仲良くなっていた。

「すっかりお友達だよね」

麻美子が、香代に話しかけると、香代は麻美

子の方を嬉しそうに見ながら、頷いた。

「お友達というよりも、見た目は親子だな」

隆は、麻美子のことを笑った。

「お姉ちゃんと妹」

ヨット教室物語・第94話

隆が麻美子に言った親子という言葉を、香代

が言い直してくれていた。

「そうよね。お姉ちゃんと妹よね」

麻美子は、訂正してくれた香代の言葉に嬉し

そうだった。

それから隆1人が混じってはいたが、日が暮

て周りが暗くなるまで、ラッコのキャビンの

では、女の子たちの黄色い声で女子会トーク

盛り上がっていた。

「そろそろ、お開きにしようか」

隆が皆に言った。

ヨット教室物語・第95話

隆の声で、皆は飲み終わったお茶のカップと

お茶菓子を片付けて、船台の上のヨットから

帰るために降りた。

「大丈夫か、スカートで下りられるか」

さっき上がるとき、麻美子が心配したのと同

じことを、今度は隆が瑠璃子に言っていた。

「大丈夫、スカートでどこでも普通に動き回

れるから」

瑠璃子は、隆の前で普通にスカートでヨット

のライフラインを飛び越えると、颯爽とキャ

タツを降りてみせた。

ヨット教室物語・第96話

「でも、それじゃ、真下にいる麻美子にスカ

ートの中まる見えだろう」

「え、ぜんぜん見えていないよ」

キャタツを下で抑えていた麻美子は、降りて

くる瑠璃子に向かって話しかけた。

「皆、ここから電車で帰るのかな」

隆は、自分の狭いセダン車に全員ぎゅうぎゅ

う詰めで乗せると、横浜マリーナの最寄り駅

、京浜東北線の根岸駅まで送り届けた。

「それじゃ、来週ね!バイバイ」

皆は、駅で別れた。

ヨット教室物語・第97話

「それじゃ、来週の日曜日ね」

皆が駅から電車に乗って帰ってしまうと、隆

は麻美子を乗せて東京の自宅まで車を走らせ

た。隆は、渋谷のマンションで一人暮らしし

ていて、麻美子は、中目黒の実家で両親と暮

らしていた。

麻美子には、弟がいるのだが、弟は、いまサ

ンフランシスコに単身赴任していた。

「ね、私なんだけど」

麻美子は、ずっと隆に話し出せずにいたこと

をようやく車の中で話せた。

ヨット教室物語・第98話

「私さ、ヨット教室の生徒さんたちが、うち

のラッコにクルーとして大勢来るようになっ

たら、隆が1人ぼっちでヨットに乗ることも

なくなるだろうから、今週でヨットに乗るの

は辞めようかなと思ってたのよ」

「マジで、なんで?」

帰りの車の中で、麻美子は隆に話した。

「でもさ、あの子たちとヨットに乗るのだ

ったら、なんかおしゃべりしてて楽しいし

もうしばらく隆のヨットに乗せてもらおう

かなと思い直しているんだけど」

ヨット教室物語・第99話

「いいかな?」

「全然いいんじゃないの、別に」

隆は、運転しながら麻美子に答えた。

「正直、さっきもう乗りに来ないとか言われ

た時、麻美子が本当に乗りに来ない気かと思

ってドキドキしたよ」

「そうなの?」

隆は、麻美子に頷いた。

「後さ、乗せてもらうとか言ってたけど、あ

のヨットは、麻美子も、自分のヨットって思

ってもらって良いんだからね」

ヨット教室物語・第100話

今日は、初めてのヨット乗船日だった。

先週からクルージングヨット教室は始まって

いたが、先週はクラブハウスの2階で座学の

講習を受けただけだったので、実質今週が初

めてヨットに乗る日だった。

今日は、永田瑠璃子も皆と同じようにスカー

トではなくパンツを着ていた。

「さあ、メインセイルを上げようか」

隆の号令で、皆はラッコのメインセイルを上

げるのに必死になっていた。

「そのロープを引っ張ってくれる」

明星学園・第1話

「お姉ちゃん、ちょっと待ってよ」

ゆみは、玄関先で急いで靴を履きながら、前

を行く姉に声をかけた。

「ゆみ、道がわからない間だけだからね」

祥恵は妹に返事をした。

今日は、ニューヨークから日本に帰国してき

て、初めて姉と同じ武蔵野の学校に通う日だ

った。姉は、最初の間のまだ通学路がよくわ

からない間だけ妹と一緒に通って、その後は

ゆみとは別々に学校へ通うものだとばかり思

っていたのだった。

中古車輸出・第11話

ゆみの配属された輸出部門は、国際色豊かで

スリランカ人、アフリカ人、ベトナム人など

バラエティに富んだ男性や女性スタッフ達で

構成されていた。

一方、育成部門のスタッフ達は、日本人スタ

ッフ3名のみで、若い男性ばかりだった。

彼らの仕事は、これからの、未来の中古車輸

出業者を育てるためのオンライン通信教育講

座への受講者を募ること、そして集まってき

た受講者達を、立派な中古車輸出業者として

独り立ちさせることだった。

中古車輸出・第12話

「まずは、中古車オークション会場への入会

手続きと古物商許可証の取得ですかね」

育成部門の担当者が、最近受講された受講者

の方と電話で話していた。

中古車輸出業者になるためには、まず何から

始めたら良いのかを聞かれているようだ。

育成部門でやっているオンライン通信教育講

座を受講される方で一番多いのは、国内で既

に中古車屋さんをやっていて、更なる業務拡

大で海外展開も考えているという方だが、次

は全くの初心者で中古車輸出業を始めたいと

中古車輸出・第13話

いう方だった。

既に中古車屋さんをされている方ならば、当

たり前のように持っている古物商許可証と中

古車オークション会場の会員権だが、全く初

めて中古車輸出業を目指す方の場合、まずそ

れら2点を取得するところからのスタートと

なってしまう。

中古車オークション会場は、リモートで入札

落札ができるインターネット中古車オークシ

ョン会場への入会を推奨していて、入会手続

きもインターネット上からすぐ入会できる。

明星学園・第2話

「ゆみ、フラフラ歩いてんじゃないのよ」

祥恵は、妹の手を掴むと一緒に歩きながら、

妹に注意した。一緒に歩いていて、姉として

心配になるぐらい鈍くさい妹だった。

「この子、大丈夫かな」

ゆみは、短い足で道路をフラフラ歩いている

し、自分よりも大きなバッグ抱えて揺れてる

し、何よりも何をするにも動作が鈍くさい。

「通学路を覚えるまでどころか、ずっと1人

でなんか通学できそうもないんだけど」

祥恵は、妹の手を引きながら考えていた。

明星学園・第3話

「ここから電車に乗るの?」

ゆみは、姉に手を引かれながら質問した。

「そうよ、東松原駅から学校の近くの井の頭

公園駅まで井の頭線で通うの」

祥恵は、妹に説明した。吉祥寺行きの各駅停

車がやって来て、祥恵は妹の手を引いて乗り

こむ。各駅停車だというのに車内は、ちょう

ど通勤時間で満員だった。

「つぶれちゃうよ」

「大丈夫だから、お姉ちゃんにちゃんと捕ま

ってなさい」

明星学園・第4話

「お嬢さん、ここにお座りなさい」

親切なお姉さんが、ゆみのために座席を譲っ

てくれた。

「ありがとうございます」

祥恵は、座席を譲ってくれたお姉さんにお礼

を言った。永福町の駅で急行電車の待ち合わ

せをしたため、車内はかなり空いたが、高井

戸、富士見ヶ丘から立教女学院の生徒たちが

たくさん乗ってきて、また車内は激混みにな

ってしまった。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

明星学園・第5話

立教女学院の生徒たちは三鷹台の駅で降りた

のだが、それでも吉祥寺駅までの通勤客で車

内はまだ激混みだった。

「次、降りるからね」

祥恵は、鈍くさい妹に伝えた。

「降りるの?」

「まだ大丈夫だから、まだ座ってなさい」

姉は、井の頭公園駅に到着するギリギリまで

座らせておいて、到着と同時に妹の手を引い

て電車から降車した。

「この駅って公園があるの?」

明星学園・第6話

「向こうに行ってみたい」

ゆみは、井の頭公園駅で降りると、手を引か

れている姉に言った。

井の頭公園駅の改札口を出ると、すぐ真横に

公園へ入るゲートがあった。ゲートをくぐる

と、大きな池があり、さらに奥には動物園も

あった。

「遊びに来たんじゃないんだから、学校に遅

刻するでしょうが」

祥恵は、妹の手を引き、公園には入らずに学

校方面への道へと歩いていく。

明星学園・第7話

ゆみは、姉に手を引かれながら歩いていた。

ゆみたちの歩いていくのと同じ方向には、他

にもたくさんの生徒たちが歩いていたが、祥

恵が自分と仲の良いクラスメートたちと一緒

になることはなかった。

彼女たちは皆、井の頭公園駅でなく吉祥寺駅

方面から通っていたのだ。

「ここが学校よ」

祥恵は、妹の手を引き、学校の門をくぐると

1年生の教室へ連れて行った。

「お姉ちゃんと一緒のクラスがいいな」