「ゆっくりめに走るから、明日からの通学の
ために学校までの道を覚えるといいよ」
隆は、皆に言った。
隆は、学校に着くと、かつて知ったる学校な
ので、入口から中に入るとすぐ手前にある職
員室に入って、中山先生の姿を探す。
「お、タカシ!元気ですか?」
「ハロー、ゆみがお世話になっています」
隆は、知っている先生に出会う度、皆に挨
拶をしていた。
「お世話になっています」
「ゆっくりめに走るから、明日からの通学の
ために学校までの道を覚えるといいよ」
隆は、皆に言った。
隆は、学校に着くと、かつて知ったる学校な
ので、入口から中に入るとすぐ手前にある職
員室に入って、中山先生の姿を探す。
「お、タカシ!元気ですか?」
「ハロー、ゆみがお世話になっています」
隆は、知っている先生に出会う度、皆に挨
拶をしていた。
「お世話になっています」
妹のゆみが通っている学校だし、ゆみは、こ
の学校では優等生で通っていて有名なので、
出会う先生皆に声をかけられて大変だった。
「あ、中山先生!」
「あ、隆くん」
中山先生は、この学校で学校事務の仕事して
いる日本人の事務員だった。
「先生、今日から岡島さんのところの子が通
うんで、宜しくお願いします」
「ああ、そうだったわね。聞いているわ」
中山先生は、隆に返事した。
そして、中山先生は、奥にいたミラー先生に
声をかけて呼んだ。その手前にいたアスター
先生にも声をかけた。
「あ、今日からの新入生よね。承りました」
アスター先生は、中山先生に返事した。
「うちのクラスに入るのは彼かな」
アスター先生は、中山先生に確認すると、良
明のことを中山先生から引き継いだ。
「私も、ご一緒にクラスまで行きますか?」
「いらないわ。大丈夫よね」
アスター先生は、良明の顔を覗き込んだ。
そして、アスター先生は、良明を連れて自分
のクラスへと行ってしまった。
「こんにちは、行きましょうか」
ミラー先生は、美香に言うと、今度は、美香
を連れて一緒に行ってしまった。
由香と末っ子の萌香は、担任の先生に加えて
中山先生も一緒に、それぞれの教室へ向かう
こととなった。
「お母さんも、お子様たちと一緒に教室へ見
に行きますか?」
「お願いします」
岡島の奥さんも、中山先生たちと一緒に2人
の教室へついて行くことになった。
「隆くんは、もうここまでで良いわよ」
「良いんですか?」
「隆くんは、会社だってあるでしょう」
中山先生は、隆のことを解放してくれた。
「それじゃ、宜しくお願いします」
隆は、中山先生たちと別れると、車に戻って
マンハッタンの会社へ出勤した。
「意外に、早く解放してもらえた」
隆は、車の運転しながら呟いていた。
アスター先生は、良明と一緒に廊下を歩いて
教室へ向かっていた。
「こんにちは、アスターといいます」
アスター先生は、良明に自己紹介したが、良
明には英語が通じなかったようだった。
「まだ日本から来たばかりで、英語じゃわか
らないのか」
良明は、黙ったまま、歩いていた。
「うちのクラスには、日本人の女の子がいる
のよ。席は、その子の隣にする予定だから、
いろいろ学校のことは、彼女に聞いてね」
アスター先生は、良明には英語が通じないと
は思ったが、一応そんなことをお喋りしなが
ら、良明と歩いていた。
「はーい。皆さん、授業を始めますよ」
アスター先生は、教室の入口に立つと、中に
いる生徒たちに声をかけた。
「今日は、新しく仲間になる日本から来た新
入生を紹介します」
アスター先生は、良明のことをクラスの生徒
たちに紹介した。
「彼の名前は、」
「えーと、彼の名前は、」
アスター先生は、紙に書いてある良明の名前
を読み上げようとして、苦労していた。
「これは、どう読んだらいいのかしらね」
アスター先生は、日本人の名前の読み方の難
しさに悩んでいた。
「えーと、多分ヨシュ。ヨシュワキーかな」
アスター先生は、なんとか読み切った。
「日本人同士だから、ゆみの隣の席にしまし
ょうか。ゆみちゃん、色々教えてあげてね」
アスター先生は、ゆみに言った。
ゆみの隣の席には、マイケルがいた。
「マイケルは、向かい側のシャロルの横に席
を変わってちょうだい」
アスター先生は、ゆみの横の席を空けると、
そこに良明のことを座らせた。
「ヨシュワキー、ゆみの隣があなたの席よ」
アスター先生は、良明に伝えた。
「英語じゃ通じないか。ゆみ、あなたが日本
語で説明してあげてちょうだい」
アスター先生は、ゆみに命じた。
「こんにちは、ここがあなたの席よ」
ゆみは、アスター先生に言われて、良明を自
分の隣の席に案内した。
「ヨシュワキー君、ここがあなたの席よ」
ゆみは、手で引っ張って椅子に座らせると、
良明に言った。
「ここ、あなたの席」
ゆみが話しかけても、良明は黙っていた。
「ゆみ、ゆみの日本語って発音下手だから通
じていないんじゃないの」
それを見て、親友のシャロルが、向かいの席
からゆみに言った。
「私、ゆみ。ヨシュワキー君、こんにちは」
やはり、良明は何も言わず黙ったままだ。
「ね、たぶん日本語の発音おかしいのよ」
シャロルは、ゆみに言った。
以前、ヒデキ君たち日本人とゆみが会話して
いた時にも、ゆみの日本語の発音がおかしく
て、ヒデキたち日本人にさえ、ゆみの言葉が
通じなかったことがあったのを思い出した。
「そうかもしれない」
ゆみが、困ったようにシャロルの顔を見た。
「どうしたら良いかな」
「アスター先生!ゆみの日本語がおかしくて
全然通訳になっていません」
マイケルが手を上げて笑いながら、アスター
先生に報告した。
「ゆみも、アメリカ生活の方が長くて、あま
り日本語得意じゃないから困ったわね」
アスター先生は、マイケルに苦笑した。
「ゆみちゃんは、簡単な日本語で良いから、
彼に説明してあげなさい」
もっとお兄ちゃんと日本語の勉強をしておけ
ば良かったと思っても今更手遅れだった。
「次はランチタイムです、生徒の皆さんは教
室の前に並んでください」
アスター先生は、皆に言った。
午前の授業中、ずっとゆみは自分のルーズリ
ーフを広げて、良明にも見せて、一生懸命、
先生の話している授業の内容を説明していた
のだったが、ゆみの日本語が通じないらしく
て、良明はずっと黙ったままだった。
「ランチタイムよ。前に並ぼう」
ゆみは、良明の手を引っ張って、椅子から立
ち上がらせると、一緒に前へ並んだ。
「ゆみ、その通訳ならば、俺は日本語を全く
話せないけど、俺でも出来ると思うぞ」
マイケルが笑いながら、ゆみに言った。
確かに、今のゆみの誘導は、日本語らしい言
葉をまるで使っていない、手で引っ張っただ
けだった。
ランチタイムは、学校の地下にある食堂へ行
って、そこで食事をするのだった。
「食堂に行くのよ」
どうせ、ゆみが話す日本語は良明には通じな
いのだから、手振りで説明し始めていた。
いつの間にか、ゆみは、日本語で説明すると
いうよりも、良明の手を引っ張って、移動さ
せるようになっていた。
「マイケルじゃないけど、ゆみのそれっても
はや通訳じゃないよね」
シャロルも、ゆみの通訳を笑っていた。
食堂には、机と椅子が用意されていて、生徒
たちは、そこへ腰掛けてお昼を食べる。
お昼ごはんは、給食ではなくて、生徒たちそ
れぞれが持参して来た自分のお弁当を食べる
ことになっていた。
アメリカの学校でのお弁当は、紙袋にサンド
ウィッチと缶ジュースを入れて持ってきてい
る子が殆どだった。
「ごはんだよ」
ゆみも、自分の紙袋を開くと、中から持って
来たサンドウィッチと小さな缶ジュースを出
して食べは味めた。
良明は、横の席に座ったままだ。
「ごはん持って来ていないの?」
ゆみは、良明に聞いたが、良明は黙ったまま
椅子に腰掛けていた。
「私のサンドウィッチ、半分食べる?」
ゆみは、自分の分のサンドウィッチを半分、
良明に差し出したが、良明は、結局それも全
く何も食べてくれなかった。
「ゆみ!」
アスター先生が、ゆみたちの座っているテー
ブルにやって来た。
「午後からの授業なんだけど、午後は、ヨシ
ュワキーはミスタールビンの授業なので、ミ
スタールビンのところに連れて行ってあげて
ちょうだい」
「私たち、先に行っているね」
シャロルは、ゆみに言った。
ゆみたちの午後の授業は音楽だった。ゆみは
良明をミスタールビンの教室に連れて行かな
ければならなかったので、シャロルは、先に
音楽室へ向かった。
「これからミスタールビンの教室に行くの」
ゆみは、良明に説明した。
「ミスタールビンは、私よりも日本語がすご
く上手だから、話しやすいと思うよ」
ゆみは、良明に伝えた。
「ゆみ、久しぶりじゃないか」
ミスタールビンは、ゆみに日本語で言った。
ミスタールビンは、大学で日本語を勉強して
いて、日本人と同じぐらい上手に、きれいな
日本語を話せる先生だった。
「うちのクラスのヨシュワキー君です」
ゆみは、ミスタールビンに紹介した。
「こんにちは、ヨシュワキー君」
ここPS24小学校では、日本から来たばか
りの日本人生徒たちを集めて、ミスタールビ
ンが英語の授業を行なっていた。
「ゆみちゃん!」
ミスタールビンに良明をお願いして、自分の
クラスに戻ろうと歩き出したゆみは、教室の
後方から呼び止められた。
「あら、こんにちは」
ゆみは、ヒデキに挨拶した。
ヒデキも、ミスタールビンの英語の授業を受
けていたのだった。
「どうしたの?ゆみちゃんもミスタールビン
の授業を受けるの?」
ヒデキは、ゆみに聞いた。
「私は受けないわよ。うちのクラスの新入生
を連れて来ただけなの」
ゆみは、ヒデキに答えた。
「でも、私もミスタールビンに英語じゃなく
日本語の勉強してもらいたいかも」
午前中ずっと新入生に話しかけていた自分の
日本語が全く通じなかったことを思い出して
ゆみはヒデキに答えた。
「え、ゆみちゃんのクラスに日本人の新入生
が入ったのって珍しくない」
「そうなの、初めての日本人」
「お兄ちゃん、うちのクラスに日本人の新入
生が初めて来たのよ」
ゆみは、夕食の時、隆に話していた。
「そうなのか!だから、お兄ちゃんが言った
じゃないか、一緒のクラスになるって」
「え、日本人の新入生って女の子じゃないよ
男の子なんだよ」
「なんだ、そうなのか」
「ヨシュワキー君って男の子なの」
ゆみは、隆に伝えた。
「ヨシュワキー君?」
「ヨシュワキー君っていうの、私の隣の席に
なったんだけど」
ゆみは、珍しく由香ではなく、隆に学校であ
ったことを話していた。
「私、もっとお兄ちゃんと日本語で話して、
日本語をちゃんと勉強しておけばよかった」
「ぜんぜん通じなかったのか」
隆は、ゆみの日本語がぜんぜん通じなかった
ことを聞いて、思わず吹き出していた。
「でも、ヨシュワキーって名前からして、日
本人ではなく中国人なのかもしれないな」
「中国人?」
「名前からして、ヨシュワキーなんて名前の
日本人は流石にいないだろう」
「そうか!中国人だったのね!」
ゆみは、隆に聞いて、なるほどと思った。
「確かに、おまえの日本語は下手だけど、日
本人なら通じないってことはないよ」
「そうか、そうよね!中国人だったのね!そ
ういうことだったのね」
ゆみは、隆の見解に納得した。海外だと日本
人と中国人は外見がよく似て見えるものだ。
「明日、シャロルにも話してみる」
ゆみは、マイケルに自分の日本語が下手と言
われたのが、かなりショックだった。
「彼は、チャイニーズだったのよ」
「ああ、チャイニーズね」
シャロルは、隆の話をゆみから聞いて、納得
していた。隆のことを、すごく頭が良くて優
しいゆみの兄と思い込んでいるシャロルは、
隆の言うことは何でも信じてしまうのだ。
「アスター先生、ヨシュワキーはジャパニー
ズではなくチャイニーズなんです」
マイケルも、アスター先生に彼がジャパニー
ズでなくチャイニーズであることを説明して
くれていた。
「チャイニーズだったかしら?」
アスター先生は、名簿を確認しながら、チャ
イニーズだったかしらと少し疑問に感じてい
たが、彼女自身もジャパニーズとチャイニー
ズはよく似ていて違いがよくわからないので
マイケルに返答出来ずじまいだった。
「チャイニーズでも良いじゃない、ヨシュワ
キー君と仲良くしてあげなさいね」
先生に言われて、ゆみは大きく頷いた。
「ヨシュワキー君、私は中国語はよくわから
ないけど、仲良くしてね」
ゆみは、良明に言った。
そして、それからは、ゆみの言葉がヨシュワ
キーに伝わらなくても、ゆみがヨシュワキー
の手を引いて、手話のように指図していても
クラスの誰も笑わなくなった。
「でも、変よね」
ヨシュワキーが中国人であることがわかって
も、まだゆみには違和感が少しあった。
ゆみの違和感の一つは、ヨシュワキーがチャ
イニーズとわかった後も、月曜と木曜の午後
は、いつもミスタールビンの教室に彼を連れ
て行っていたことであった。
「ミスタールビンは、日本語で英語を教える
先生なんだけどな」
ゆみは、不思議に思っていた。
「ミスタールビンって中国語も話せるの?」
ランチタイム
相変わらず、ヨシュワキーは、お弁当を持っ
て来ていなかった。
良明は、ランチタイムでも何も食べずに、ゆ
みの横に腰掛けているだけだった。
「私の食べる?」
ゆみは、自分の持ってきたサンドウィッチを
良明に差し出したが、受け取ってもらえなか
った。
「マイケル、チェッカーやろうか」
食事を食べ終わって、シャロルはマイケルと
ボードゲームのチェッカーを始めた。
ゆみは、食事の後、自分の長い髪に付けてい
る猫のバレッタをいじっていた。
猫のバレッタは、先週末、隆と一緒にブルー
ミングデールへお買い物に行ったとき、買っ
てもらったものだった。
猫のバレッタをいじり終わると、シャロルと
マイケル2人が遊んでいるチェッカーゲーム
を眺めていた。
「今日の5年生の午後の授業はありません、
お休みになりました」
アスター先生が、皆のテーブルを周って、ク
ラスの生徒たち皆に伝えていた。
「食べ終わったら、帰宅して大丈夫ですよ」